「教科書と現実」小さいおうち みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)
教科書と現実
本作は、昭和10年代のある家族のお手伝いさんが主人公であり、雇い主の妻と部下との恋愛模様を軸に、忍び寄る戦争に翻弄される、今も昔も変わる事のない人間の心情を活写している。大事件は起きないが、些細な出来事を巧みに積み重ねて、ストーリーに起伏を付け、洗練された台詞で作品全体に緊張感を持たせている。
現代に生きる年老いた主人公の回想という展開なので、我々現代人が教科書で知ったものとは違う、主人公が生きて感じた昭和10年代の豊かさと現代との類似点が際立っている。子供の受験に奔走する母親たち、おもちゃメーカの重役である主人を囲んでグローバル化を考える社長や部下たちの姿は現代と大差ない。
そんな時代も戦争によって蝕まれていく。家族が住む小さな赤い屋根の家が空襲されるシーンが印象的である。この家は無防備、無抵抗な市民の象徴であり、その家が、無残に破壊されることで、敢えて、血生臭さを排除し、戦争の悲惨さを端的に表現している。
何故、態々、現代と過去が交錯する設定にしたのかは、親戚の若者と主人公の口論シーンが端的に物語っている。昭和10年代を教科書でしか知らない若者と、実体験してきた主人公との意見の食い違いは、歴史の社会的認識と個人的感覚の差である。歴史を括り過ぎると断片的になり、それでは時代の雰囲気は解らない。やはり、歴史体験者の生の声を後世に語り継いでいかなければ、歴史は正しく伝承されていかないという本作のメッセージが伝わってくる。
本作は丁寧で緻密なストーリー構成だが、肝心なところは説明不足である。主人公の雇い主が、妻、部下を本当はどう思っているのか等々、何よりも、“長く生き過ぎた”という主人公の重要な台詞の真意は最後まで解らない。
作為的に説明を排除し、映像表現から観客が想像するように仕向けている。観客それぞれが色々な想像をすることを許容している。それが映画の妙であり、名匠・山田洋次監督の狙いであろう。
山田洋次監督は、何気ない風景を撮るのがとても得意な方なのだと思います
街の雑踏、田園風景、商店街、オフィス街
どの映画でも生活感が見えるのです
とら屋から見える表の通行人
それはもう通行人ではなく一人一人の生活や家族が見えてくるほど
あまりこの作品と関係なかったかな、大好きな監督です。
みかずきさん今晩は
いつも共感またコメントありがとうございます。
私はタキ(黒木華)ちゃんと奥様(松たか子)を中心にみていたので時代背景を軽くみていました。
しあわせボケですね。
でも。今の時代は本当に何が起きても可笑しくない時代で怖い気がします。
時代は繰り返されるのでしょうか。
そんな事を考えます。
みかずきさん。
共感とコメントありがとうございます。
この映画に付いて話せる事、とても嬉しく思っています。
とても好きな作品です。
忘れっぽい私でも、数々のシーンが思い出せます。
原作者の中島京子さんは、58歳。
聞き取りや綿密な取材で原作を書かれたのでしょうね。
戦前なんて全然知らないのに手を取るように分かりますね。
私の祖母も戦前東京に住んでいました。
空襲が激しくなり東松山市の親戚に疎開した事など、生前に聞きました。
(ウチは家族が少なかったので、食べ物でヒモじい思いはしなかった・・・)
などと、意外な話しを聞きました。
アニメの「この世界の片隅に」も、
戦時中を深刻すぎず、時にはすいとんを食べる描写など、
庶民は明るく暮らしていますね。
みかずきさんは、この映画の問題点や奥さまの夫の描写がない点や、
「長く生き過ぎた」と呟くタキさんの言葉の真意が語られていない・・・
とご指摘されていますね。
省略・・・脚本も泣く泣く切る部分は必ずあると思います。
描くことで全体のバランスを崩すこともありますものね。
みかずきさんが4・5を付けてらして、高く評価されているのが
嬉しかったです。
すいません、長々と。
この作品をレビューに選ばれたことも嬉しく思います。
みかずきさん、コメントありがとうございます。コメントは初めてです。
そうですね。閉塞感溢れる社会の中での開戦は、庶民を意気揚々とさせた。そんな空気を感じました。現代ととても似ています。こんなに沢山の人が死ぬことを誰も想像できなかったのではないでしょうか。作品中の人物の軽やかさが逆に怖いですね。