「文句なし」キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー alalaさんの映画レビュー(感想・評価)
文句なし
今のところMCU作品の中で多分一番好きだし、よく出来てると思います。
MCUの全体的な世界観は好きなのにも関わらず、今まで単独主演の作品は悉く酷評してきましたが、これは文句なしに☆5です。
『ウィンター・ソルジャー』という副題からもわかる通り、これはアメリカ人にとって戦後(といっても二次戦ではなく朝鮮戦争やベトナム戦争)の苦い記憶を呼び覚ます名前以外の何物でもありません。
アメリカ史の知識があれば二度三度見てもかなり楽しめるメタファー満載の作品らしいのですが、アメリカ以外の国でも世界中で爆売れのMCUですから、当然アメリカの歴史なんぞ知らんという人や、ただのエンタメとして子供達も見るわけです。この作品が凄いのは、そういった「アメリカの歴史なんぞ露ほども興味ねーよ」という人達にも楽しめるように話が作られているところ。
アメリカの映画は、作品としてのメインテーマ以外に政治的な意図が隠されていることがほとんどだそうですが、ここまで直接的に政治的な雰囲気を出しているのに、ここまで何も知らなくても楽しめる作品を作るのはかなり難しいと思います。
自分は『キャプテン・アメリカ』の1作目『ファースト・アベンジャー』に関してはクソほど酷評しましたが(続編ありきの後続作品紹介動画にしか見えなかったので)、監督変わった?製作会社変わった??と思うくらい全然雰囲気が違って驚きました。映画として完璧な形なんじゃないかと思います。巷では『アベンジャーズ エンドゲーム』がめちゃくちゃ沸いてましたが、個人的には劇場で観た『エンドゲーム』よりDVD観賞の今作の方が相当良かったと感じてます。
…とはいえ、実を言うと今作は、自分がまだMCUの存在すら知らず、『キャプテン・アメリカ』の名前すら知らず、試写会のチケットを貰ったので「キャプテン・アメリカ?何それ?」「知らねー。ヒーローもの?」みたいな会話しながら観に行った覚えがあります。えぇ。だいぶ昔に劇場で観てました。で、驚きなのは、当時映画自体にも興味のなかった自分が、キャプテン・アメリカの名前すら知らなかった自分が、5年程経った今突然アベンジャーズシリーズの存在を知って、キャプテン・アメリカの存在を知って、『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』のタイトルを見た瞬間「あ、これ観たやつ」とすぐにわかったこと。内容も(キャラを知らなかったので意味の分からない部分は曖昧だけど)多少なりともハッキリ覚えており、なんも知らずに見たあの頃の自分でさえ、強烈に記憶に残ってたんだなーと少しばかり感動しました。
上に朝鮮戦争の話をチラッと書きましたが、もう少し詳しく言うと、戦争に行っていたアメリカの兵士達が戦後、祖国に帰ってきますよね。そして、敵国の捕虜になっていた米軍もめでたく祖国に戻ってきたわけですが、解放された際、実は洗脳され既に敵国のスパイになっており、自国の情報を敵国に流していた、ということが多々あったそう。それから、戦争が終わるたび自国の人間・友人・家族であっても帰還兵を信用できず、国内での疑心暗鬼が広まった恐ろしい時代がありました。ソ連との冷戦中も、内部に共産党の人間がいつの間にか紛れ込んでいるということがありました。ありました、といっても、今もアメリカ人にとっては「過去の話」ではありません。
自分の周りにいる人間が、実は裏切り者だったら?正義の味方だと信じていた人が、実は人々を扇動して暴動が起こるよう仕向けている悪だったら…?
そういう不安があるからこうして今も、超大作にこういう設定をブチ込んでくる。
今作でのウィンター・ソルジャー(帰還兵の意)は、アメリカの代表的なヒーローキャプテン・アメリカの、大昔に死んだと思われていた幼馴染兼大親友のバッキーが洗脳されて戻ってくるという設定。なので、これはメタファーでも何でもなく、まんま上に書いた「恐ろしい時代」の話がメインテーマということ。
最初のだだっ広い公園をサムとスティーブが走ってるシーン(有名な「左から失礼」のシーン)、あの場所も、調べたら帰還兵の集会や反戦運動が行われた場所なのだそう。帰還兵を象徴する場所なんですね。わざわざリンカーン像やワシントン記念塔なんかをはっきりと映して、「この場所ですよ!」とアピールしていることからも、2人が長距離マラソンできれば場所はどこでも良かったのではなく、このシーンはこの場所、このナショナル・モールという場所でなければならなかったことは明らかです。
サムも帰還兵であり、また精神異常を抱えた帰還兵のケアをしている。その「帰還兵と深い関わりのある2人」が、「帰還兵を象徴する場所」で一緒に走っている。
そして、あのやたらと人気のある台詞「左から失礼」。今度オリンピックがあるので、最近はよくエネゴリ君がCMで50m走ってますが、あれを見てみましょう。そう、何か変だなーと思ったら、あの2人、コースを逆走してるんですよね。まぁ、正式なマラソンじゃないし、正式なコースでもないし、ただ走ってるだけなのでルールなんてないんですが、でも何故わざわざ逆回りなのか?
これは、今作でこれから話のベクトルが過去に向かうよ、というメタファーなのではないかと(見終わってから)感じました。皆未来に向かっている、しかもキャプテンも「(現代に)頑張って適応している」と言っています。それなのに、この2人は過去に向かって走っている。特にキャプテンなんかターミネーター走りのすげー速さで。笑
よくよく考えれば、帰還兵の精神的なケアや生活のサポートをしながら、サム自身も鬱屈とした思いを抱えていましたよね。だからキャプテンに助けを求められた時、迷わずファルコンに「戻る」わけです。
冒頭だけでこれだけ面白く作り込んでくれた本作ですが、風呂敷広げるだけ広げて締めは雑、というよくあるパターンにはまることもなく、もちろん続編ありきの作品ではありますが「気になることあるなら続編見ろ!あばよ!」と続編に全責任をブン投げるような終わり方ではなく、次作にバトンを渡しつつ本作自体はきちんと「見終えた感」のあるラストでした。
MCUに興味ない(つーかアイアンマンが好きでキャプテンに興味ない)家族も「映画見た感があった」と言っていた通り、起承転結のバランスが取れており、テーマがはっきりしており、かつ別の角度から見れば知識がある人はある人なりの楽しみ方ができる。映画として(売れるには)必要最低限の三拍子であり、しかしこの三拍子が揃っていることはなかなかないと思います。
MCU作品、好きですが、やはりヒーローものは大味というか、「主役(ヒーロー)がイケメンぽく見えりゃ良いだろ」という感じの作品が多い中(偏見か?)、盛り上がるところは最高に盛り上げてくれましたし、キャラクターの心情や人間関係を緻密に描くことで、きちんとキャラクターに感情移入できるようになっていました。
更に言うなら、自分はアベンジャーズ初期キャラの中でキャプテンが一番好きなので、キャプテンを最高に格好良く撮ってくれて感謝感謝。ただ「この人イケメンでしょ~ホラホラ~」っていう下らないイケメン自撮り自己満映画ではなく、動きが美しく、迫力があるように見せる撮り方で、多分シリーズの中で一番、安易にCGに逃げず違和感のない格好良さに仕上げてくれた作品ではないかと思います。
先程レビューを書くため『ウィンター・ソルジャー』を検索したら、ちょうど映画.comの記事も一緒に出てきてくれたのでついてに読んだんですが、もう首が吹き飛ぶくらい同意肯定の嵐だったので
https://eiga.com/movie/77787/critic/
コチラ。
「キャプテン・アメリカは他のヒーローにはない魅力がある」という話で、
>>普通の人間が本来持っている力から生じたヒーロー
>>人間性の肯定から生まれた
>>彼は天才でも超能力者でもなく、彼の力は宇宙や異世界から来た特殊なものではない。ただ速く走り、高く跳び、素早く動き、強く打つ。そして、友を、愛する人を、熱く思う。そんな人間の基本的な力が増幅されるだけで、どれだけ偉業が成し遂げられることか。本作は、このヒーローのそんな真髄だけを、冒頭から徹底して描く
そう、そう、それですよ!!!!!
アイアンマンやソーが好きな人が多いのはわかります。でも、「キャプテン地味じゃん」とか言ってる奴!お前!わかってねぇーなー!!(絡み酒)
生身の人間を強化しただけの、いわば自分らの延長線上にいる「人間」がここまでやるんすかー!って、それで初めて勇気をもらえたりするわけじゃん。もうほとんど心で戦ってんじゃん。血清だって、心で認められたようなもんじゃん。
機械つけて空飛べたら誰でも戦えるし、カミナリ操れたらそりゃ戦えるでしょ!人間より強いの当たり前でしょ!勝てる気するでしょ!ヒーローで、リーダーで、主人公やるようなキャラはカッコ良くて当然、人と違って当然、抜きん出てて当然。
でも、「なんもできない」一般人の気持ちに寄り添えるのは、努力じゃどうにもならない壁を身を持って体験してるのは、実はキャプテンだけ。しかも、周囲を護るために戦いたいと言っていたのに、戦える力を手に入れた途端、今度は護る対象を失ってしまう。常にアンバランスなのにも関わらず、常にまっすぐ。迷っても絶対に諦めない。そして何か、やたら前向き。笑
人を率いるのに、前向きじゃないリーダーなんて嫌だもんなー!
今後そのようなバックグラウンドが描かれるキャラもいるだろうけど、少なくとも今のところは、ここまで「ただカッコイイだけじゃない」ヒーローはキャプテンだけかなぁと。
日本人好みの「成長がわかりやすい」ヒーローだと思うんですが、日本人気は…どうなんでしょう、やっぱりアイアンマンなのかな?日本じゃアイアンマンは全然人気ないかと思ってたけど、意外と人気で驚いてます(失礼な)。
一番人気はやっぱりスパイダーマンかと思いますが(サム・ライミ監督強し)、二番手は…
う~ん、キャプテン人気もっと広まってほしいですね!
この作品好きすぎてもう4千字超えてるので、いい加減この辺でやめておきます。
どんな人にもお勧め!
キャラクター相関がある程度わかっている人じゃないと厳しいですが、それ以外はアクション、サスペンス、友情ものや感動もの、勿論ヒーローものが好きな人にも、あらゆる人にお勧めです。