劇場公開日 2014年3月14日

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「無理にハンスを悪役にする必要はあるのか?」アナと雪の女王 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0無理にハンスを悪役にする必要はあるのか?

2021年1月8日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

単純

興奮

萌える

歌最高! 映像最高! 役者最高! テーマも良し!!
 なのに、この鑑賞後感…。
 脚本が練られていない。演出がひどい。なぜ、脚本・演出を練り込まなかったんだろう。そうすれば、普及の大作になっただろうに。惜し過ぎる。
 脚本ができる前に映像化と楽曲制作・音撮りを進めていって、結果、それらを割愛できなくて無理に繋げた感じ。
 吹き替えの台本は、口パクに合わせて言葉を選びに選んだと宣伝で知った。そんな風に、細部の造り込みは半端ないのだけれども、全体を通してみると…。

恐れ=心や思考を凍らせる=攻撃あるいは防御 VS 愛=心や思考をほぐす=相手を受け入れる・共存 という世界中に必要なテーマ。

自分がどう生き、自分自身と、社会とどう折りあっていくべきなのかということを考えさせてくれるテーマ。

そして、使い古された王道なれど、真実の愛ってどういうものなのかというテーマ。

たくさんの、心ひかれるテーマが宝石のごとく散りばめられている。
だのに、あるテーマは安易に扱われ、あるテーマは途中で話がまとまらなくなり、最後は強引にまとめ上げられて終わる。

なんだったんだ。

行動的でさびしがりやで、本当はかわいいアナの性格。
 ただ、あまりにも考えなしで…。王子様との出会いもそうだし、エルサの気持ちを考えずに自分の気持ちを押し付けるところが嫌い。
 そんなどうしようもないアナが、真実の愛に目覚めてっていうのが主題の一つなんだろうけれど、アナのやっていることって幼稚園児のレベルだよねとゲンナリしてしまう。(幼稚園児の観客に合わせたのか?)

それに対して、思慮深く我慢強いエルサ。どんなに苦しくって辛かったろう。周りに気を使って壁を作るしかなかったというのがやるせない。(ワンオペに苦しむママにも似ている)
 だから自分の居場所を見つけた時の迫力は、とても力強い。
 一人で生きることを決意したエルサ。でも孤独。氷の城を作り上げる時の、たんかを切るような迫力のある歌。解放感とともにある強がり。繊細ながらも固く冷たい氷の描写とエルサの表情でいかんなく表現されていて、感動に打ち震える。

だが、ここがクライマックスではない。
 エルサがどうやって人と暮らしていくか、周りの人がエルサとどう対峙するかという展開。なのだけれど、そのあたりの、エルサを取り巻く周りの葛藤もグダグダ、安直。

そんなアナとエルサや周りの変化(成長)が描かれるはずのクライマックスなのに流されてスル―されてしまいそうな脚本なので、とっても残念。突然、”真実の愛”が出てきて、決着。

”真実の愛”って〇〇〇ってことだよってされているけれど、そのことに気づくプロセスのエピソードが弱く、安直。

疑問なのが、アナが真実の愛とは何かに気づくために、ハンスを悪役にする必要があったのか?
 それぞれの心の中に巣くう”恐れ”そのものを悪役にする脚本にできなかったのか。
 そんな具体性のないものをだすと、子どもはわからないとでもいうのか?東映の名作『太陽の王子ホルスの大冒険』では、ちゃんとその辺が描写できていたけどなあ。ああ、でも小学校高学年以上でないと、理解できないか。

王国の人々も烏合の衆?解決されるのを待つだけ?ここも、『ホルスの大冒険』と比べてしまう…。

かつ、
もう一人の重要な主人公、オラフの設定=自分の特性には決してあわない場を希求してやまない。って、リアルな人間でいったらなんて不幸なことなんだ。
 ものすごく古いけど、名優として評価されていたにも関わらす、他の才能を望んで自死された田宮次郎氏を思い出してしまう。
 このオラフの設定にどんな意味があるんだ?エルサが作った造形物だから、エルサの潜在願望の投影?ただのギャグ?もう少し、この設定を活かすエピソードが欲しかった。

加えて、ひねくれた私の心は、
「ありのままの~」という大ヒット曲を、エルサの歌として聴く時はとても感動するのだけど、
「ありのままの~」とか言いながら、悪戯している、人の迷惑になることをしている人たちを「ありのままの~」って受け入れられるんだろうかと皮肉っぽく聴いてしまう。

というふうにアイデアは良いのだけれど物語としてはなんなんだと☆1つくらいにしたい。

だけれど、
ネット配信されていた「Let it go」をはじめ、各シーンもそのシーンだけ切り取ってみると見応えある。
 (前後・全体の筋を合わせると、このシーンで語られていることって、さっき言っていたこととつながっていないとか、どうしてこうなるってなるけど)
 特に、「let it go」は、上記のように皮肉的に聴きながらも、この歌とこの映像だけを大画面・良い音響で鑑賞するためにために、1000円くらいは出してもいいかななんて思ってしまう。

やはりディズニー、侮りがたし。
と、同時に勿体なさすぎる。

とみいじょん