「全てのMr.Banksに救済を・・・。」ウォルト・ディズニーの約束 CYNDYさんの映画レビュー(感想・評価)
全てのMr.Banksに救済を・・・。
Saving Mr.Banks・・・。このタイトルを見て、涙が出てしまった。
そして邦題の「ウォルト・ディズニーの約束」には大きな意味があるのだ。
意味のある名訳である・・・。
【ネタバレあり】
「東の風が吹く、何か不思議なことが起こりそうな・・・」
この有名なセリフを冒頭とラストに用いて。
全てのMr.Banksを救済するために。
この映画は作られたのだ。
「不朽の名作『メリー・ポピンズ』の誕生秘話」というコピーは、もはや何のネタバレでもない。
謎解きは、順当に映画の中で紐解かれていく。
梨はダメ、赤はダメ、Mr.Banksは冷血漢じゃない・・・。
そして、メリーポピンズを先入観なしに見れば、Mr.Banksへの救済の物語であることは完全に理解されれている。
これは、トラバースへの理解と許しの映画だ。
彼女への許しの最初の伏線は「散歩」だ。
ハリウッドの滞在施設からスタジオへ向かう途中、そこには誰も散歩する姿がなかった。
「誰も散歩をしていない。」
運転手が答える。
「散歩は神から与えられた至福」と。
心を許す相手など誰もいないアメリカ。そのいくつかの演繹が必要なセリフに理由を聞くこともなかった相手こそが。
唯一無事のアメリカの親友となる・・・。
それは、映画を見て楽しんでもらうことにして。
そして。
この映画のもう一つの大切なMr.Banksは・・・。
幼少時代に新聞配達を強いられていた、ウォルトディズニー自身の父、イライアスに対する思いへの救済。
解き放つべきだと、このオーストラリア育ちの強迫観念作者のもとへ向かうべき言葉は。
Saving Mr.Banksそのものだったに違いない。
苦労した幼少時代の後、キャラクター肖像権に大手映画会社からの陰謀で苦い思いをした末のミッキーマウスの成功だけに・・・。
メリーポピンズの想いはどこにあるのか?と謎解きを始めるウォルト。
人前では屈託なく明るいが、実はタバコが止められず隠れて吸っている。
COPDのために空咳が時に止まらない・・・。そして数年後彼は肺がんで亡くなる。
「夢はかなう、願い続ければ」
彼は20年の想いを、「娘との約束は守らなけらばならない」と思い通りの映画を作った。
そして、トラバースには、相いれない部分も認めながら、自分のMr.Banksを解き放った。
肖像権問題の後、会社倒産の危機を乗り越えてミッキーマウスで成功を収めたファンタジア。
イマジネーションをリアルに。それが彼に作ったMagic Kingdam。
肉体は死しても、その魔法は現代の世界中に広まってる。
彼は現代の魔法使いになったのだ・・・。
事前にたまたまメリーポピンズを見た私だったが、皆が言うほどメリーポピンズが親しみやすいキャラクターには見えなかった。
そして、何よりMr.Banksへの想いは理解されていたと確信する。というかこの映画を見る前からそうとしかとらえられなかった。
トムハンクス演じるウォルトが言う。
娘はこの本をボロボロになるまで読んだ。なぜそこまで気に入ってるかって?
それは、メリーの立ち向かう姿勢を理解しているからだよ、と。
そして、それはこの映画でも必ず理解される、と。
さて、メリーポピンズのオリジナルの正体は、彼女のおばさんなのだが、映画の科の姿はしかめっ面のメリーポピンズであり、それをまねたのがP.L.トラバースということになる。
しかし、その叔母に対する思い、評価は一切謎解きしない。
ただ、気になったのは。
「気にすべき愛する家族は一人もいない!」と逆切れするシーンで・・・。
何か言いよどむ部分がある。
少なくとも、妹や姉妹は存命の可能性が十分あるが。
また、どうしても敬意を払えなかった母親ですら存命の可能性があっただろう・・・。
が、もしかすると。
一番気にしていたのは、この「メリーポピンズ」のオリジナルの「叔母」だったのかもしれない・・・。
ラストで再現される録音テープ(劇中よりも言葉が多い)から、女史が相当面倒であることがわかるわけだが、本当のエンドロールラストにもう一つのおまけがある。
「この作品をダイアン・ディズニー・ミラー(1933/12/18-2013/11/19)に捧ぐ」と出る。
ウォルトがメリーポピンズの映画化を約束した、彼の長女である。