「『アメリカ ケジメに過ぎぬ 砂時計』」ゼロ・ダーク・サーティ 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
『アメリカ ケジメに過ぎぬ 砂時計』
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9・11テロの首謀者ウサマ・ビンラディンの捕獲を命じられた女性CIA捜査官の執念深い追跡を描いた作品。
あの悲劇に向かい合うアメリカの正義や苦悩を主題にしたアプローチは典型的プロパガンダ映画の一つだが、『ブッシュ』『グリーン・ゾーン』『華氏911』etc.とは極めて異なる位置を発する。
冒頭のアルカイダ捕虜に問答無用の拷問を強いるシーンの時点で、アメリカの正義感・愛国心は既に置き去りと化しているからだ。
多くの犠牲を目の当たりにし、主人公が疲弊していく様は同監督の『ハート・ロッカー』の第二章に通ずる。
現場で実際に血を流す兵士とは違い、本部から指示をする立場としての客観性が、砂まみれの血生臭さを若干和らげてくれるのが、希少な救いの一つかもしれない。
報復行為で仲間をテロに殺されたり、他の事件に追われた国家が作戦の協力を疎かにされる苛立ちがビンラディン追跡への原動力に繋がっていくのは哀しい皮肉である。
そもそもビンラディンを仕留めたからと云っても、世界が平和に戻るワケではない。
喧嘩を仕掛けられ、面目を潰されたアメリカのケジメの一つに過ぎず、虚無感の砂塵にまみれる主人公の気怠い表情が、疲労困憊したアメリカ社会そのもののようで、尚更、後味が重苦しく感じた。
北朝鮮の動向次第で、日本も同じ悲痛の道を辿るのかもしれへんなと思うと、主人公の濁った瞳が
「日本人だって他人ごとではないわよ」と忠告しているような気がして仕方ない。
日本の今を憂いながら、最後に短歌を一首
『イヌ吊し 悪夢も霞む 砂時計 ケジメ射抜けど 見失う的』
by全竜
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