劇場公開日 2013年6月22日

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「ラストの問いかけにギクリ」さよなら渓谷 マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0ラストの問いかけにギクリ

2013年7月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

難しい

幸せ

夏、クーラーもないような部屋で暮らす男女。尾崎俊介とかなこ以外は、役名がはっきりしない。ここでは名前はどうでもよく、何者なのかが重要なのだ。その人物相関が明らかになるにつれ、男女のもつれた愛憎が紐解かれていく。

互いに愛情があるのか解らない男女。生活感を感じない部屋。互いに気遣っているようだが優しさは感じない。女が重そうに持つ買い物袋さえ男は持ってやらない。それでいながら、夜は獣のように交わる。
真木よう子と大西信満は、そうした雰囲気を漂わすにはグッド・キャスティングだと思う。

二人の過去に何があったのか、それを暴いていくきっかけに隣人による幼児虐待殺人事件を設定。一見、何の関係もない事件の解明に、かなこと俊介の過去を上手く絡めていく。しかも、事件の解明を単純に警察の捜査に任せるのではなく、多分に好奇心旺盛な週刊誌記者に委ねるところが巧い。この記者が物語の進行役となる。途中で二人の関係がなんとなく分かっても、大森南朋による記者が妻との関係や女性記者とのやり取りで間を持たせ、最後までテンポを変えることなく話を着地させる。彼の問いかけで終わるラストが作品を引き締める。

テーブルはホームセンターで安く買えるが、家庭は簡単には築けない。同じテーブルを挟んだとしても、男女の愛はそれぞれだ。
これで女優に甘さのない西川美和が「ゆれる」で見せたように、人の心の奥底にあるものを妥協なく引きずり出してくれたら、もっと見応えがあったことだろう。

マスター@だんだん