「忘却の砂の底から」オブリビオン 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
忘却の砂の底から
『トロン・レガシー』のジョセフ・コシンスキー監督が、
トム・クルーズを主演に迎えて放つSFスリラー大作。
大スター・トムクル主演ということであまりムチャな
展開は無いかもと思っていたのだが、実はものすごく
挑戦的な内容だった点に驚き。
むちゃくちゃ楽しみながら鑑賞できた。
前作に引き続き映像と音楽のシンクロは見事なもので、
オープニングタイトルが出るまでの徐々に徐々に
盛り上がっていく感じや、あの壮麗なエンディング曲
なんて鳥肌立つほど良い! もうサントラ購入決定。
また、本作はアクション主体の映画ではないけど、
『トロン~』に比べてアクションのスケールも
見せ方もグレードアップ。
飛行艇とドローンの峡谷でのチェイスは面白かった!
球形の機体がくるくる回るたびに攻防が入れ替わる
トリッキーな空中戦!
そして壮大なスケールの映像美。
砂に埋もれ、荒廃した都市の風景は終末感に満ちている。
朝焼けに佇む倒壊したオベリスク。
頭だけ残されたエンパイアステートビル。
恐竜の骨のように佇む橋(ブルックリンブリッジ?)。
一方で、無菌室のように清潔で完璧なスカイタワーや
“テット”内部はそのひんやりとした様式美が良い。
そしてサスペンスフルな物語。
『エイリアンに勝利したと思われた世界は実は
エイリアンの征服する世界だった』というどんでん返し
こそなんとなく読めていたが、そこから先の展開には
ドギモを抜かれた。
謎が謎を呼ぶ物語の果てに、記憶とは何か、
自分とは何者かというテーマが浮上してくる。
上部の命令に背き続けた主人公ジャック。
何号目かも知れない彼だが、何号も前から彼は
自分が何者かに疑問を抱いていたのだろうか。
いずれにせよ、彼が本格的に己の記憶を疑い出したのは、
何十年ぶりに帰還したジュリアと出会ってからだ。
主人公をタワーから閉め出した、哀れなヴィカを思い返す。
彼女は嫉妬に狂ったというより、自分が何者なのかが
少しずつ曖昧になってゆく恐怖に脅えていたのかも。
自分が何者なのかを知らせる記憶。
オブリビオンとは『忘却』を意味する。
消去されずにしぶとく残った強い記憶。
忘却に打ち勝ったもの。
あなたは何者か。
あなたを特別な存在にしているのは
責務でも容姿でも遺伝子でもない。
あなたをあなた足らしめているのは
あなた自身の記憶に他ならない。
あなたが強く強く記憶に刻み込んできたもの自体が
今のあなたを形成する。
あなたは、あなたが大切に想ってきたものたちの
結合体なのだ。
この物語は、『記憶が未来への力をもたらす』
ということを語っていたのかも知れない。
うん、まあ、いつもながら深刻に考え過ぎだと思うが(笑)、
作り手が何を訴えようとしてるかは作り手しか
知り得ない訳だし、物語から何を感じ取るかなんて
受け取ったもん勝ちだよね(笑)。
設定や中盤以降の流れにアラを感じる部分もあるが、
この世界観がとにかく気に入っている。
どうもこの監督さんとは相性が良いらしいっす。
次回作も楽しみにしてます。
〈2013.5.31鑑賞〉