「離れてはいけない。」インポッシブル ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
離れてはいけない。
これを観ている間中、背筋が凍って仕方がなかった。
もちろん、大津波が押し寄せて流されたこともあるのだが、
一番怖かったのは、これが異国の地であることだった。
言葉が通じないこと、習慣や(ある意味で)モラルの違い、
バカンスを過ごすのにどんなに適したリゾート地だろうと、
災害に見舞われれば一気に悪夢の地と化すのである。
実話を元に描かれたこの物語は、
つまり最終的に家族が出逢える…ことが分かっていながらも、
災害後の、こんな途方もない映像が延々と続くのか…という、
何をどう捉えて、どう行動すればいいのか、が試される作り。
5人いた家族は辛くも命は助かるのだが、一家はバラバラ。
長男と母親。
次男三男と父親。
大怪我を負った母親は、長男と共に木の上に逃げ延びたのち、
現地人に救助される。だが…
収容先の病院はもちろん遺体と重症患者で溢れかえっている。
出血が止まらない母親がどんどん弱っていく中、
母親の助言で周囲の助けに奔走していた長男が、戻ると
母親がいない!消えてしまった母親を狂ったように探しまわる。
なんなの!これ~。
せっかく助かってもまったく安心できないじゃない。
確かに災害時に物事が真っ当に動くはずがない。のは分かるが、
それにしても、なんでこんなことが起こってしまうのか!?
所変われば~なんていっていられない状況が続く。
中盤以降は並行して父親が二人の息子を高台へと預け、妻と
息子を探し求める姿が延々と映し出される。
まさに気が狂いそうな父親の心情をユアンが熱演!するが、
こちらも預けたはずの子供たちが、なぜかトラックに乗せられ…
という奇妙な光景に出くわす。
これが何だったのか?最後まで説明はなかったが、もしも
あのまま子供たちがどこぞやへ連れて行かれたら、またしても
家族がバラバラになってしまう。本当に怖い話だ。
ケータイも使えないこんな状況で、もしも生きていたならば、
絶対に家族と離れてはいけないと痛感した。ことに海外では。
母親N・ワッツが大熱演。
さすがアカデミー賞にノミネートされるくらいの演技だった。
いや、演技とは思えないリアルさに満ちていた。
彼女が美しい妻の姿でいられるのは、冒頭のほんの10分足らず。
被災してからほぼ半裸でボロボロの姿となり、重傷患者と化す。
それでも息子を率いて、自力で木に這い上がる姿や、
自分は大丈夫だから、周囲の人の助けになりなさい。と気丈な
振る舞いを続ける。ものすごいお母さんである。
だけど、このまま夫と逢えなかったら…とそう思っただけで怖い。
日に日に弱っていく姿が酷く、何回も目を背けてしまったほどだ。
不可能を可能にしたのは、彼女のそんな壮絶な姿でもある。
どんなに万全の備えをしても、自然災害は想定外に起こる。
もしも海外の離島であったら、これほど恐ろしいことはない。
津波の恐ろしさは、日本人なら思い出してしまいそうだが、
かなりリアルだった。2004年のこの被害も忘れてはいけなかった。
どれだけの人が亡くなったのかは分からない。
本作では主人公一家にスポットを当て、他者のその後はほとんど
描かれていない。描かれているのは助かった人間がメインである。
ドキュメンタリーとはいえ、個人の回想劇だからこれは仕方ない。
彼らのように出逢うことができた家族が多かったことを祈るばかり。
手を合わせるようにドキドキしながら見守る作品である。
旅先では万が一のことを考えなければならないという問題提起と、
サバイバル能力、絶対に諦めない生きる勇気を再確認させられる。
(J・チャップリンの老婆も忘れ難い。不思議な活力を長男に与える)