劇場公開日 2013年6月14日

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「スマトラ沖地震についての事実や思いなど得るものはなし」インポッシブル ひとしさんの映画レビュー(感想・評価)

2.0スマトラ沖地震についての事実や思いなど得るものはなし

2020年11月1日
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鑑賞方法:DVD/BD

ホワイトウォッシュと呼ばれるキャスティング問題について、これまで映画を観るとき気になったことはなかったが、この映画は(ホワイトウォッシュとはちょっと違うかもしれないが)違和感を感じた。
タイ南西部の、外国人観光客が多いリゾートエリアで津波によって家族に起こった事実を基にした話だが、映画内では中心となる白人家族の他、彼らと密に関わったり主な演技をする出演者はほぼ白人。ローカルが出てくるのはここがアジアであるという設定を感じさせる程度。白人達だけで分かち合ったり悩んだり協力しあったり。
ケガで意識を失った主人公を地元の人間が助け手当てをしたが、彼女が意識を取り戻したときローカルの人達はただ取り囲み心配そうに大人しく見つめている。それに対し主人公だけが「ありがとう。ありがとう」と涙を流しながら発言。アジア人は純粋無垢で大人しい人達といった設定感じなんだろう。タイやタイ人はそんな国や人柄ではない。病院スタッフが、院内で死んだ人間が身につけていた貴金属を盗んだと一瞬思わせるようなシーンあり。タイでも地域性はあるだろうがタイ人はただ大人しかったり相手が白人だからと臆して大人しくなるような国民性ではないし死人からアクセサリを盗むようなデリカシーがないもしくは貧困がそこまでひどい国でもない。ボッタクリはいるが街でスリや犯罪に巻き込まれる事を常に心配しなければいけないような国ではない。その他、違和感を感じる設定いくつかあり。
この映画は、実際に災害にあったこの地や人々を知ろうとする作業なく作品がつくられたのだろう。このアジアの地を舞台とした、白人に巻き起こった白人達の物語であり、彼らの、困難に立ち向かう勇気や少年の成長、家族愛の話である。この国である必要はノンフィクションという謳い文句がつかなくなるだけであり作品に全く影響はない。

私は、過去に起こったスマトラ沖地震というとても大きな出来事とそれにまつわるそこで起こったドラマを映画を観て知り感じたかったのだと思う。他の映画を観るときもそうだと思う。事実を基にした映画ということで尚更そうだったが、この映画はそういうものはなかった。最後「○○家族が体験した出来事をもとにした映画である」と画面に流れたが、ノンフィクション映画によくある、物語最後やエンドロールでの事実の振り返りや説明なども一切ない。
この災害が起きた過去の事実に対して、思いやリスペクトはないのだと思った。それが映画にとって必要ではないということなのかもしれないが、結果見終わったあと、内容は陳腐なものに感じ、心に語りかけてくるもの、印象付けるものとならなかった。

全体的に皆さんの評価は高いようだが、この大災害を題材にしておいて、その事実へのリスペクトが何もないこと。このような内容では、ノンフィクションだろうがフィクションでつくろうが大差ない。ストーリーがよかったとしても、映画として評価するに値するものと思わない。

ひとし