「本当に作りたい映画」はじまりのみち よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
本当に作りたい映画
劇映画と言うよりも、木下惠介監督の作品を紹介し、その画に込められた思いを辿るというドキュメンタリーに近いタッチ。
戦時中は軍部の圧力により撮りたいものを撮ることができなかった。
では、戦後は好きなものを映画監督は撮ることが出来たのだろうか。自分の欲する表現手段を用いることが常に可能だったのだろうか。
戦争中は抑圧されたが戦後から現在は自由だ、などという見方は恐らく一面的なもの過ぎないだろう。作っているのは映画なのだから、スポンサーや観客の好みに合わなければ日の目を見ることはない。
濱田岳が演じる便利屋が「陸軍」を観た感想を、その作品の監督とも知らずにこっそりと語らねばならないことこそが、思想・表現の自由の問題の本質なのである。
観客が自分の好み、感想を誰はばかることもなく口にすることができる状況ならば、権力者の抑圧など無力だ。観客が金を払えばスポンサーはついてくる。
しかし、観客が周囲の意見を気にして、自分の意見を表明することが出来ない状況では、製作する側も観客の心に届けたい作品を作ることは出来ないはずである。
この意味で、戦後から現在に至るまで、本当に映画監督は撮りたいものを撮ってきたのだろうか。観客の反応を直接確かめる機会が少なる一方ではないだろうか。
大きな宣伝費用をかけて大量にメディアに露出させるモノだけが存在するかのような感覚のなかで、いったいどれだけの観客が自分の好きな映画を観る機会に恵まれ、その感想を語ることができるというのだろう。
いやいや、今はキネノートがあるからこそ、古今東西のいろいろな映画を観た様々な意見・感想に触れることができるではないか。劇場に足を運んで映画を観よう。そしてどんな小さなことでも、映画を観て思ったことを書き残そう。