劇場公開日 2012年12月8日

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「割り切れなさを抱えてこそ、の語りの強さ」サンタクロースをつかまえて cmaさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5割り切れなさを抱えてこそ、の語りの強さ

2012年12月23日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

悲しい

幸せ

語りの映画だ。
あの震災、仙台光のページェント。いずれの映像も、繰り返し繰り返し目にしてきた。そこにどんな音や声をのせるか、で映像の印象はがらりと変わる。
さまざまな語り手が登場するが、感じたのは「こんなことをしていていいのだろうか」と割り切れなさを抱えてながら生活を営んでいる人の言葉が、いかに心の奥まで届くか、ということ。あくまで個人的な感想だが、信仰や家庭にゆるぎない価値観を見出だせている方々の言葉は、耳を傾け続けるのに集中力やエネルギーがいった。一方、悩みながらも震災直後に音楽を発信したミュージシャンや、演奏を撮影し、一方で子を急遽避難させたカフェ店主の言葉は、気負わずとも胸に染み込んでいく。
何より突出して素晴らしいのは、監督のお母様・恵子さんの語り。お母様のパートだけでも、この映画に出会ってよかった、という気分になる。何かしら手を動かし、歩きまわりながら、豊かな表情とともに繰り出されるまっすぐな言葉たち。会社からのメールに狂喜乱舞し、津波で流された車探しに「大切だけど大切じゃない」と逡巡する。彼女の言葉は、生き生きと躍動し、色褪せた風景に息吹を吹き込む。そんなハイテンションな語りをクールに反応する御主人とのやり取り?も絶妙。ここだけでもずっと見ていたい、と思った。
加えて好感を持ったのは、クリスマスを迎えた子どもたちの姿だ。サンタクロースやプレゼントにわくわくと胸をときめかせる…なんていう、ホームビデオでさえも使い古された風景を、本作は臆面なく丁寧に映し出す。これが、少しもあざとくない。それは、震災があったから、なのだろうか。あの日々を乗り越えたのだから、と受け手が感じて観るからこその、震災がもたらした皮肉な幸福なのか。
震災、ページェント、クリスマス。どれもわかりやすいイメージが定着しており、個人的には居心地悪さがある。それでも、楽しく、幸せな瞬間は潜んでいる。居心地悪さを抱えながらも、ふとそう感じてもいいのでは。映画を観てから一晩経ち、昨夜のもやもやを振り返っていたら、なぜかそんな答えが頭をのぞかせた。思い出すにつけ、また印象は変わるかもしれないけれど。
監督いわく、「振り子のような」不思議な作品だ。セルフ・ドキュメンタリー「遭難フリーター」の岩淵監督が、新たな作品を世に送り出してくれたことが、うれしく、喜ばしい。

cma