「共依存せず自立させる。」くちづけ ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
共依存せず自立させる。
人気劇団の戯曲を映画化した作品。
ということで、舞台はグループホーム内の場面のみで、
カメラはずっとその視点からそれぞれを捉えていく。
これは実際に起こった事件で、新聞の三面記事から
原作・脚本の宅間孝行が拾って書きあげた物らしい。
監督の堤幸彦はその舞台作品を巧く映画化したと思う。
主演の二人(竹中・貫地谷)をはじめ、難しい役柄を
俳優陣は時に面白可笑しく、時に悲しく、残酷な面まで
よく演じ分けていたと思う。今作が好きか嫌いかの是非
を問うのとは別に、ほとんどが泣けてしまう仕上がりだ。
観始めてすぐに思ったのは(おそらく映画好きは比べる)
J・リーが父親を演じた「海洋天堂」なのだが、
今作との違いはラストでの選択になる。父子ふたりの
限りなく切ない闘い(生きるための)は他国でも同じだった。
親は子を想い、子の未来を想い、大切に育てていく。
だけどそんな自分の余命がわずかだと知った時に、
果たしてこの子の面倒を誰に頼んでいいものだろうかと、
確かに親ならば考えてしまうのは当たり前だ。
しかし障害を抱えた子を産んで育てるからには、
それが絶対的に避けて通れない道であり、病気でなくとも
親が子よりも先に死んでいくのは当たり前の事実でもある。
世間に迷惑をかけるくらいなら、と思い悩んで無理心中を
図ろうとする親を当事者でない私が責めることはできない。
が、これでは共(狂)依存となり、どちらも自立が叶わない。
親は死ぬまでその子に対し自立できるよう精一杯の努力を
重ねるだろうが、もしその子が重度の障害を背負っていたら。
私だったら、とにかくその子の為に財産を作り残す!ことを
頑張り続けるだろうと思う。施設にも片っ端から声をかける。
何があっても無理心中なんて絶対に嫌。私は死んでも子供は
絶対に死なせたくない。惨めな境遇になど置きたくないけど、
(そんなのどこの親だった同じ気持ちだ)
親は自分が生きている間に精一杯のことをやっておくのだ。
その先はその子の運命。その子の未来はその子のもの。
マコが悲しい傷を背負いつつ、明るく生きているのが救いだ。
うーやんを好きになり、儚い幸せを満喫することすら叶った。
ホームのおかみさん(麻生祐未)はとても素晴らしいヒトだった。
ドクター(平田)もその娘(橋本)も本当に素敵なヒトたちである。
そんな人達に迷惑をかけたくない、いっぽんの遺志は分かるが、
マコなら、働きながら何とか暮らせたのではないか?と思う。
知的障害者が於かれた現実に悲観して(実際に驚くことばかり)
悪い方へ悪い方へと考えるいっぽんの姿勢が不幸を助長する。
おかみさんが「ここは自立支援をするところですから、仕事は
ちゃんと行かせるようにしませんとね。」といっぽんに促した
あのアドバイスは本当だと思った。親が子にしてやれることは
障害者であろうが健常者であろうが、「自立させる」ことである。
彼らを巡る様々な事実も非常に勉強になったが、
純粋に生きている彼らと、純粋に面倒をみようと思う人々が
互いに助け合って生きていける世の中にできないものだろうか。
うーやんの妹(田畑)が、一生独り身で彼の世話をすると宣言
したのち、ラストであの展開とは(共依存にはならず)嬉しかった。
大きな声でややオーバーな表現をする役者もいたが、
発作(パニック)を起こした時に手がつけられなくなるのは本当で、
だから周囲の助け(理解)が必要になることはリアルに描けている。
(とにかく貫地谷しほりが巧い。それだけにマコが恋しくなる)