「人生の根本を覆されても、それぞれの人生は続く」もうひとりの息子 もしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
人生の根本を覆されても、それぞれの人生は続く
とてもよかったです。
フランス系ユダヤ人のヨセフと、医師?の母のオリット。父はイスラエルの大佐で、順風満帆すぎる、とても素敵な家族。お堅い仕事の両親を持ちながらも、将来の夢はミュージシャン、でも、パレスチナとの抗争に対して兵役にいかないのはおとこじゃない…的なところがあるのでしょうか?兵役の適性を得るための試験?を受けつつ、ミュージシャンを志して日々楽しく暮らすヨセフ。
そんな中、母の元に、両親の血液型から考えるとヨセフが絶対に生まれ得ない血液型だとわかる。
ここまでは、ありそうな話ですが、話の舞台は何せイスラエルとパレスチナ自治区。頭では理解してはいましたが、もっと大きく深い溝がそこにはあり…
特に印象的だったのは、オリットが相手の家族を招き、おたがい取り違えた子供たちとの初対面。お互いの男親は現状の紛争のために喧嘩になり…。
そんなことは序章に過ぎず、お互い憎み合っている民族同士、なのに、お互い敵が急に身内になることで、お互いの家族のアイデンティティが崩れて行く。
すごく、日本人的な考えかもしれませんが、本当はイスラエルの大佐という立場や、ユダヤに国を奪われたとおもっているパレスチナの人々の思い、それぞれ家族の人達にもいろんな思いはあると思うのですが、本当は本人同士が一番傷ついていて、それに気付けないほどの衝撃的な出来事だったのか、それぞれの家族が、ふたりの青年を受け入れられなくなっていきます。
こんな時に本当に男ってだめですね。両母親は育てた息子を愛しつつ、産んだこどもに思いを馳せる…両父親は体裁を考えて息子と距離が出てしまう…。ヤシンの兄は敵国の血が流れているということを意識し、ヤシンに敵対心向きだし…
自分のアイデンティティを失いかねない事実を突きつけられた上に、周りの反応の強さに二人は翻弄されていくわけですが、最後は…
水は血よりも濃いといいますが、それも事実。でも、水だって長く共にすれば血よりも濃くなる。そして、それはお互いの事情を越える…そんなことを感じつつ、さいごにヨセフが一人佇むシーンと、「自分の人生を歩んでいたはずの君…」のくだりは本当によかったです。
家族の大切さ、人としての強さと悲しさ…そんなことを感じる悲しくも、立ち上がれる映画でした。