「大きな希望を持って救われる」もうひとりの息子 ハチミツ舐太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
大きな希望を持って救われる
シネスイッチ銀座にて鑑賞。ほぼ満員だったのには驚いた。
かねてより鑑賞したいと思っていた映画の一つ。
「そして父になる」と同じく、子供の取り違えが原因で起こる物語。
赤ん坊の取り違えが元となるストーリーなので、どうしても比べられてしまうとは思うが、二つは全く違う部分を主眼にした映画なので、比べらる事はできない。
勿論、どちらも甲乙つけがたい程の素晴らしい作品なのは、間違いない。
赤ん坊の取り違えという事件を発端に、
「そして父になる」は、父親になる、家族になってゆくという過程、を描いている。
対して、
「もう一人の息子」は、アイデンティティーの崩壊から再構築という部分を主眼に描かれている映画だ。
勿論、イスラエルとパレスチナでの現状、生活、考え方のようなものも、さりげなく、でも生々しく描かれている。
18歳を目前にしたある日、自分が憎き敵方の人間だと知る事となったら・・・。そして、自分とは何かを、強制的に見つめ直し、再構築する事になったならば・・・。
このような体験は幸か不幸か私にはないが、映画を通して疑似体験できるだけでも価値があったと考える。
ただ、どことなくイスラエル側で育った少年は、パレスチナ側で育った少年よりも、幼さが目立つ。モラトリアムが長いためなのだろうが、こういう対比も素晴らしいなと。
そして、最後には、希望を残して終わらせるという後味の良さも、この物語の背景にある現実を考えると、映画として意味が出てくる終わり方だと思う。
一つ、残念なのは、自分には特定の信仰する宗教はないので、その部分での喪失感については、全く理解ができなかった。
他方で、誤解を恐れずに書くと、
この映画の鑑賞後に、「そして父になる」は、日本社会における、大人の未成熟さ、のようなものをとても上手く表現していたのだと感じた。別に、パレスチナやイスラエルの大人が成熟しているという事ではない。
最後に、この映画は、最低限のリテラシーががなければ、全く意味が分からないので、そこの部分を抑えておく必要はあるかと思う。