「思考を主人公にしたすごい映画」ハンナ・アーレント よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
思考を主人公にしたすごい映画
政治的な問題には常に感情が入り込む。アーレントは同胞からの憎悪を恐れることなく、ナチのホロコーストに潜む、我々人間の悪の普遍性を説く。正しいと思ったことを、そのままの形で広く社会に伝えることの難しさと、その反発に立ち向かう勇気を彼女の生き方を通して描いている。
彼女は哲学者であるし、自らの主義主張のためのパフォーマンスはとくにない。彼女の哲学的思考とその結果を新聞を通じて世に問うという、映像にしてもつまらなさそうな内容であるにもかかわらず、最後まで飽きさせない。
ユダヤ社会の世論やイスラエルの諜報機関からの圧力に屈することなく最後の最後まで自説を曲げることのないアーレント。その姿からは、彼女自らが告発した「凡庸な悪」への嫌悪と決別の意志が見えてくる。
こうした題材をこれだけ見せるとは、まったくすごい映画だ。
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