「ユニークな構成ありきで、彼女の政治哲学への肉薄が薄れたかのような…」ハンナ・アーレント KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
ユニークな構成ありきで、彼女の政治哲学への肉薄が薄れたかのような…
2013年のキネマ旬報ベストテンで
「愛、アムール」「ゼロ・グラビティ」に次ぐ
第3位に選出された当作品を、
ようやく観ることが出来た。
この作品、確かに
最後の講義でのスピーチは
彼女の政治哲学を集約的に示して見事だが、
盛り上がり感があるのはこの部分だけで、
映画作品としては全般的に平板に感じた。
私の理解が及んでいないのかも知れないが、
それは、
ハンナがアイヒマン裁判の当初から、
彼は凡人であったとの彼女の台詞もあり、
それはラストの講義での、
戦争犯罪は無知の成せるワザとの
スピーチの主旨に合致しているわけだから、
特段にこの裁判で彼女の思想が
大きく変化したものではないことと
符号しているためではなかったろうか。
更には、この映画で特徴的なのは、
この映画での撮影フィルムと
裁判当時の映像を重ね合わせた手法だが、
このユニークな手段が先にありきで、
何かアイヒマン裁判が彼女の思想の
エポックになったかのような構成に
無理があるように感じたことが、
今一つこの作品に乗りきれなかった理由にも
なったような気がする。
しかし、それよりも問題は、
ラストシーンでのユダヤ人の終生の友人
からの三行半の場面で、
昨今の世情で感じる、
当作品のハンナや
「夜と霧」のフランクルのような、
他者への寛容性が影を潜めると共に、
客観的な思考・立場の陣営は少数化して、
両極の思想のどちらかの陣営に属すことが
強要されているような世界観に繋がっている
ようで怖さを感じてしまった。
それにしても、
ハンナのヘビースモーカーぶりは凄い。
彼女の死因は心臓発作のようだが、
喫煙漬けも遠因となっていなかっただろうか
と余計な事が、頭をよぎった。
4月23日再鑑賞
この作品への理解が出来ていないのでは
ないかと気になって再び鑑賞してみた。
ラストシーンでのハンナの講義内容には
最初の鑑賞時よりも感動を覚えると共に、
色々なことが頭をよぎった。
例えば、ハンナは確実にハイデガーの
同じ哲学を受け継いでいるが、
ハイデガーは戦中の人で、
ハンナは戦後の人であったため
評価が異なったこと、
また、彼女の、「思考停止の結果、
平凡な人間が残虐行為に走る」との哲学は、
後にキング牧師が引用したであろう、
映画「紳士同盟」の中の、
「最大の悲劇は、悪人の圧制や残酷さでは
なく、善人の沈黙である」との台詞にも
通じるものがあるようにも感じた。
いずれにしても、私のこの作品への認識が
少し高まったことにより、
🌟を1つ加えさせて頂いて、
🌟4つに変更させて頂きました。
申し訳ありませんが、
未鑑賞です。
現在公開中の
『6月0日 アイヒマンが処刑された日』
に関心を抱く中、本作を紹介していただき、知り得た訳です。いつか本作も鑑賞したいと思います。