「考える葦。」ハンナ・アーレント ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
考える葦。
ドイツ系ユダヤ人哲学者ハンナ・アーレントの実録に基づいた作品。
ナチス戦犯アドルフ・アイヒマン裁判を傍聴して纏めたレポートが
一大物議を醸し彼女はユダヤ人社会から多大なバッシングを受ける。
見よう聞きようによってはまるでユダヤ人を糾弾し、ナチスを擁護
しているかのように受け取ってしまう感情論が成り立つからである。
彼女の「思考停止が凡庸な悪を生む」という思想は今の現代社会でも
まかり通る痛烈な解析だ。アイヒマンを絶対的な悪とはせず、命令
に従っただけの小役人とは彼の実録映像を見比べながら(効果アリ)
かなりの説得力がある。所詮つまらない人間ほど巨悪の根源になり
つつあることは「いじめを助長する傍観者」にも見てとれるし明らか。
冷静に判断を下すことに於いて彼女の仕事ぶりは終始に真っ直ぐで
淀みがなかった。自身が糾弾されることも承知で彼女はレポートを
書いたのだから(おそらく予期していた)後半の講義での解説で熱弁
を振うのは当然。拍手を贈る学生と椅子を蹴る同僚の対比が面白い。
単なる善悪では片づけられない感情を持つ人間にとって問題と離れ
客観視をすることの必要性が分かる。民族で囲わず、男女で分けず、
メディアや情報も鵜呑みにせず、自身の頭で必死に考えた末に出た
結論が果たして何か。すぐに信じ込み一方向へ靡いていく国民性に
日本も歯止めをかけなければ。人間が考える葦なら思考停止しない。
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