隠し砦の三悪人

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劇場公開日:

解説・あらすじ

黒澤監督初のシネスコープ作品。戦国時代、敗軍の大将真壁六郎太が、世継ぎの雪姫と隠し置いた黄金200貫とともに敵陣を突破し、同盟軍の陣内へ逃亡するまでの脱出劇。難関につぐ難関、次々とと襲い来る絶体絶命の危機を間一髪で切り抜けるアイデアの数々は、黒澤ほか三人の脚本家により練り上げられたもの。また、六郎太一行に付き添う狂言回しのごとき百姓コンビが、後に「スターウォーズ」の『C-3PO』、『R2-D2』の原案になった逸話はあまりにも有名。スリルとサスペンスとユーモアにあふれた、痛快娯楽時代劇の傑作巨編。

1958年製作/109分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1958年12月28日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第9回 ベルリン国際映画祭(1959年)

受賞

銀熊賞(最優秀監督賞) 黒澤明
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(C)1958 東宝

映画レビュー

5.0失われた日本に捧げられた神話

2025年6月7日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

『隠し砦の三悪人』は「見せる」と「語る」黒澤明のうち、彼の作った30作品の中でもっとも「見せる」に重点を置いた作品である。
「理性」に訴えかけてくるその他の作品と異なり、この作品だけが唯一「感情」にも訴えかけてくる点が特異である。
しかしあえてここで、この作品で何を黒澤が語りたかったかということに着目してレビューを書いていきたい。

この映画の雛形となっている『虎の尾を踏む男達』が戦前の神話だとしたら、『隠し砦の三悪人』は戦後の神話である。
『虎の尾を踏む男達』では「忠誠心」というものが全面に出ていたが、本作では「選択と責任」が軸になっている。

雪姫は単なる姫様ではない。戦後の象徴天皇と重なる存在であり、政治権力を持たず、しかし文化的精神的な「高貴さ」「在ることそのもの」の象徴、国を背負う存在として描かれている。
つまり、彼女は日本神話の延長線上にある国体の擬人化である。

秋月家の滅亡と新たな共同体の再編成、旧来の力の崩壊と、新たな秩序・文化の再生。
これは、敗戦による国家の崩壊と戦後日本の再出発を寓話的に表現している。
喪失→放浪→再生という弁証法的展開は、古典的神話のパターンに則っている。
黒澤は無意識のうちに、戦後日本に必要な神話の骨格を再編成していたのである。

ジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ』でアメリカ建国神話の再構築を試みたのと同様、黒澤もまた『隠し砦の三悪人』で日本文化の神話的再設計を志向していた。
つまり、両者は国民的アイデンティティのリセットを映画によって試みたのだ。

損得勘定に生きる農民、又七と太平は、敗戦後の庶民像を代弁している。
二人は理想でも忠義でもなく、生存と打算の中で右往左往するが、最終的には理性のある共同体に再統合される。
これは日本社会の「国民統合」プロセスそのものを寓話化している。

黒澤がどこまで自覚的に「神話再編成」を意識していたかは不明だが、作品全体に「秩序と無秩序のはざまを揺れ動く人物たちの姿」が描かれている。
それ自体が戦後日本の再統合できていない不安定な状態を表し、無意識の時代精神が投影されている。

『隠し砦の三悪人』は日本人が求めていた敗戦後の日本の進むべき道、在り方を揺るがずに提示した作品ではないだろうか。
娯楽性と寓話性を両立させた黒澤明の特殊な知の成果である本作は、現在の価値判断能力を失い、先が見えなくなっている日本人にこそ見てほしい。

4K UHD Blu-rayで鑑賞

95点

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neonrg

5.0三悪人とは果たして

2025年5月4日
スマートフォンから投稿

楽しい

ドキドキ

又七と太平の口ゲンカで幕を開け、同じく二人が仲良くトボトボ家路に就く姿で終わる。この映画の主人公は真壁六郎太ではなく、まるでこの二人のようだ。
明治生まれの藤原釜足が大正生まれの三船敏郎を劇中では「兄貴」と呼ぶ。千秋実も三船より年上だが、そう呼ぶ。映画の中でも二人のほうがもちろん年上に見える。
しかし強い者がやっぱり“兄貴”なのだ。それは戦国の世だけではなく、いまでも変わらない。お調子者は実力者に胡麻を擂り、媚を売り、保身を図る。弱い者はそうやって生き延びてゆく。
しかもこの二人は、自分の都合でお互い手を組んだり陥れたりしようとする。腹の中では何を考えているかわかったものではない。黄金を見たら欲が沸き、もっと、もっとと手に入れたがる。こうやって人は投資詐欺に引っ掛かっていく。まったく今と変わらない。監督は四百年前の現代を描いている。いや、映画自体が七十年近く前のものだ。まことにもって恐れ入る次第だ。
一方で、忠義に徹する六郎太がいる。気高い矜持の姫がいる。男の友情に生きる田所兵衛がいる。下女も姫を守ろうとする。
対照的な人物配置と緊迫した脱出ストーリーで、巧みに長丁場を持たせようとする。この映画はロードムービーに分類されるという。
捕虜たちが大脱走を試みる一大スペクタルシーン。火祭りで踊るシーンも圧巻だ。六郎太が馬上で二人も敵兵を斬り落とす有名なシーンは何度観てもわくわくする。又七と太平のコンビネーションは後に『スターウォーズ』でロボットコンビとして世界に進出することにもなる……。
文字通り日本を代表する痛快時代劇だ。

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ぶっち

4.0コミックリリーフが活躍する冒険活劇にして、黒澤時代劇の醍醐味満載の傑作

2025年3月22日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

笑える

楽しい

興奮

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Gustav

4.5キャラクター設定が素晴らしく、スターウォーズに影響を与えたのも納得

2025年3月2日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

笑える

楽しい

興奮

映画の冒頭は、太平と又七のコンビの後ろ姿から始まる。ラストシーンもこの二人。この二人の他、雪姫も重要なキャラクターで、三船演じる六郎太だけが目立つ映画ではないところが魅力。太平と又七のキャラクター設定がよくできていて、観ていて身近な話に感じる効果がある。仲が良いようだけど喧嘩もよくするという、腐れ縁のような関係は、R2D2とC3POのモデルになったというのも納得できる。美しいだけでなく、気の強い雪姫のキャラクターもこの映画の質の高さを印象づける効果があり、ぴったりとはまっている。

殺陣もこの映画の魅力。六郎太と田所兵衛との殺陣は、刀ではなく槍なので珍しい。大きく移動しながらの殺陣は緊迫感があって見どころのひとつだろう。馬に乗って逃げる相手を六郎太が馬で追いかける殺陣は、ハイレベルな騎乗技術とスピード感に驚く。このシーンもスターウォーズ/ジェダイの帰還のスピーダーバイクのチェイスシーンのモデルらしい。

ラスト近くで雪姫が「雪姫は楽しかった。この数日の楽しさは城では味わえぬ。人の美しさを、人の醜さをこの目でしかと見た」と話す場面がある。ここは、ローマの休日の「ローマです。なんと申しましても、ローマです。私が生きている限り、ここでの思い出を生涯大切にするでしょう」というセリフを連想した。ただ、年代はローマの休日が1953年、隠し砦が1958年で影響を受けた側になる。

この映画について、タイトルの「三悪人」とは、誰を指すのか、という議論があるが、やはり太平と又七の二人は「三悪人」に含むのではないかと思う。(すると、残る一人は当然、六郎太だろう)確かに、悪人と呼ぶには軽くて庶民的すぎるようにも思う。しかし、「金」を運ぶという“打ち首ものの役目”を必死に果たそうとしているのだから、そう呼んでも良いのではないか。

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p.f.naga