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隣国山名に攻め込まれ壊滅状態となり、滅亡の危機に陥った秋月藩の残党6人は、隠し砦に逃げ延びます。最後の希望は16歳の雪姫と隠し金200貫(750kg)が無事なこと。姫と金を密約のある早川領へなんとか無事に脱出させること、それが侍大将だった真壁六郎太(三船敏郎)に課せられたミッションです。
タイトルの「三悪人」の解釈もいろいろあるようですが、隠し砦で密談をする三人①老重臣、長倉和泉(志村喬)②姫の付き人の婆(三好栄子)③真壁六郎太の三人を悪人と見ました。三人の作った悪魔のプランにまんまと乗せられ、生死の狭間で欲まみれのダンスを踊らされるのが百姓コンビ、太平(千秋実)&又七(藤原釜足)です。3頭の馬と3人の男の背中に偽装した金を積み、姫と男たちの決死の脱出劇が始まります。
太平&又七がたまたま金を見つけるなんて、管理が杜撰すぎ!とか、太平&又七に頼らずとも、若い下郎が二人いるじゃないの!などの小さな疑問が湧くところですが、大した問題ではありません。そんな小さな問題は雪姫のキャラ設定の前に吹っ飛びます。
・怖いほど釣り上がった眉の美少女
・スタイル抜群
・ピチTとホットパンツとレッグウォーマー(脚絆)で駆け回る
・話す時はいつも命令口調の叫び声
・自称が「姫」
・ツンデレで口は悪いが情に厚い
・いつもスックと「Aの字」立ち、座るときはあぐらか大股開き
・乗馬好きで手にはいつもムチ
・何かあるとすぐ人をムチでしばこうとする
・人前では涙を見せない、泣く時は一人
・眠ると全く無防備で、なかなか起きない
付き人の婆も殿が育て方を間違えたと嘆きます。この姫の設定を大のおっさん4人があーでもないこーでもないと額を突き合わせて作り上げたかと思うと、なんだか微笑ましくなります。美少女キャラとそれを支えるおっさんという設定は、現在も世界中のフィクションで繰り返し利用され続けています。
「姫は楽しかった!
この数日の楽しさは城の中では味わえぬ
装わぬ人の世を
人の美しさを
人の醜さを
この目でしかと見た
六郎太、礼を言うぞ
これで姫は悔いなく死ねる」
姫は敵に掴まり絶体絶命のピンチに陥っても泣き言一つ漏らしません。漏らさないどころか、ついに六郎太の今までの苦労を労ります。これには叱られフェチの六郎太もメロメロです。ついでに二人の会話を聞いていた敵方の武将、田所兵衛(藤田進)までメロメロになっています。幼さの残るやんちゃ姫を豪傑二人が支える構図、この姫に仕えたい!とおっさんに思わせる説得力、さすが黒澤明の演出力です。観客のおっさんたちも、恐らくみんなこのエキセントリックな姫を守りたくなったのではないでしょうか。
侍であるおっさん二人はいずれも個の力で困難な状況を突破します。馬上で両手に刀を構え、全速力で敵を追走する真壁六郎太(三船敏郎)。もう、「ひとり騎馬軍団」です。農耕民族には見えません。あんなのが追っかけてきたらもう諦めます。田所兵衛(藤田進)も一人で大勢を相手に大立ち回りを演じ、姫と六郎太を死地から救います。個人の爆発的なパワーで困難な状況を打開するのが黒澤監督は好きなようです。どんな無茶な設定も、三船敏郎の「農耕民族離れした身体的説得力」で乗り越えます。痛快娯楽時代劇に三船敏郎は欠かせません。
六郎太は姫と同じ年である妹、小冬を姫の身代わり(影武者)として敵に差し出しています。脱藩した田所兵衛は自分の家族を山名に置き去りにしています。隠し砦に残った4人は敵に殺されています。痛快時代劇ですので、こういった犠牲はさらりとした描かれません。みんなの犠牲はすべて雪姫を生かすためです。雪姫は本作の悲劇性を一身に背負っています。でも雪姫はそれをほとんど見せません。唯一、小冬の死を知った雪姫が仁王立ちで一人号泣するシーン以外では。
陥落した秋月城には大勢の裸の男達が集められています。城の地下を掘らせ、埋蔵金を探すためです。「おまえら人間じゃねえ、モグラだ!」。もぐらというより、軍隊アリかイナゴの群れでした。一斉に蜂起した奴隷たちが手に手に棒きれを持って武装した山名兵たちに襲いかかります。撃たれても斬られても、仲間の屍を乗り越え、声を上げながら突進する裸のおっさんたちの群れ。しかも数多すぎ!さすが過剰大好き黒澤映画です。まず冒頭にこの最大のスペクタクルシーンが描かれるのも本作の特徴です。侍は侍の意地のために個の力で戦い、大衆は生きるために群れで戦います。
映画の中盤「火祭り」も大衆が主役のシーンですが、ここでは歌と踊りというルールがあります。姫も六郎太も仕方なく踊りに参加させられます。「この世は闇夜、ただ狂え!」という歌の文句がありましたが、この大衆はただの虫けらの集まりではありません。仏教的無常観を背景にした過激さ、陶酔して踊り狂う熱狂、得体の知れないパワーを秘めています。
黒澤監督自身も、心のどこかでこのような大衆のパワーに対する恐怖心を持っていたのではないでしょうか。このような大衆のパワーの前には、きっと六郎太も太刀打ちできないはずです。本作が作られた頃の黒澤監督は、大好きな三船敏郎と組んで、映画好きな大衆にも支持され、もっとも幸福な時代だったのではないでしょうか。
「仲ようわけるのじゃ。喧嘩はならんぞ!」
褒美をもらった太平&又七が雪姫に叱られて、映画は幸せに幕を下ろします。