「万人向きではないが、これ程の衝撃を受けた作品は久々!今井監督作品同様の戦慄感が堪らない」共喰い Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
万人向きではないが、これ程の衝撃を受けた作品は久々!今井監督作品同様の戦慄感が堪らない
山口県・下関市内 小さな片田舎の町の中心を流れている汚れた川
昭和63年の夏・この小さな町に、こだましているのは蝉の大合唱だけだった。
このファーストシーン、画面から溢れ出す熱波、その感じが凄い!
ジメジメと身体を蝕み、人を狂わすその暑さ、遠馬のナレーションと被さり、暑さと気だるさだけが観客の脳裏にも届いて来る。
17歳の誕生日を迎えたばかりの主人公・遠馬のギラギラと燃えたぎり、抑え切れない性衝動、遠馬の心と身体の全体を蝕み、包み込んでいる性衝動と言う、この熱く生きる塊。
それが嫌でも、いつしか観客自身を十代の自分との対面へと引きずり込んで行く。
10代の男子高校生、女子高生の性への目覚めから体験へと移って行く辺りの不安と戸惑いの感じが、実に画面の隅々まで、ギラギラと熱く溢れ出ている。
そして、遠馬は父を軽蔑し、憎みながらもその血同じが自分自身にも、歴然として流れている事への恐怖、その感覚を良くぞ、この若い俳優が演じたと菅田将暉に衝撃を憶える。
毎度の毎度の事で、申し訳ないのですが、私はこの映画の原作を未読だ。
だから、この映画のラストが田中慎弥氏の原作のラストとは大きく異なると言うのだが、そのどちらの方が、より素晴らしいのかについての判断が全く出来ない。
しかし、この物語には人間誰しもが持っている心の闇・自分の弱さや欠点と、その闇に何とか、抵抗しようと試みても、己の弱みを振り切り、欠点を打ち負かす事が出来ずに、更に苦しみ、迷い続ける・多感なティーンエイジャーに限らず、人間が本来抱える悲哀が、切々と胸に響いて来る衝撃的な作品だった。そして女性が持っている底力、生命力、運命に翻弄されるだけではない、最後に下す、決断力の強さに圧倒された。
私は実は何故か、この青山真治監督作品を余り観ていなかった。特別嫌いと言う訳では無かったのだが、彼の撮ってきた作品を今迄は観ようと言う想いに駆られる事は無かった。だが、今回この作品を観て、この人の観客の感情に無理矢理忍び込み、観客の感情を鷲掴みにする画の撮り方に脱帽したので、彼の他の作品も今後観てみようと思う。
私は、シャーリー・マクレーンの大ファンなので、ついついこの原作者の田中慎弥氏が芥川賞受賞発表記者会見の時にお騒がせ発言した事は、笑えない出来事であったのだが、この映画を観ると、二十歳から引き篭もり同然に、一人で執筆に専念し、作家への道を極めようとした執念の強さ、底力と言うのだろうか?その強い生きる力のような物が物語の随所から溢れていた。人間に限らず、生きる動物のエネルギーの凄まじさを感じられずにはいられなかった。益々今後、彼の作品が面白さを増してきそうで、映画化も楽しみだ。
しかし、彼のこの物語を、此処まで熱く、狂気と衝撃の高みへと押し上げたのは、田中裕子と光石研の確かな芝居を抜きにしては、完成出来なかった事は言うまでもない!