「それでも残酷な青春映画」キャリー 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
それでも残酷な青春映画
スティーヴン・キングの原作と、あまりに強烈なブライアン・
デ・パルマ監督版(1976年)との比較中心のレビュー。
冒頭のフェティッシュなプールシーンやキャリーの母が磔
(はりつけ)となる展開など、デ・パルマ版を意識している
と思わせるシーンがある一方、スーがキャリーの最期に
居合わせる展開や街を半壊させるほどの暴走、ちらりと登場
する石の雨や裁判のシーンなどは原作への目配せと思しい。
だが類似シーンより、差異部分に目を向けて本作を考えてみたい。
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原作/デ・パルマ版ではデジャルダン先生は死亡するが、
今回のキャリーはデジャルダンを生き残らせる。
キャリーが先生に感謝を感じていたと思わせる描写。
また、落下したバケツで既に死亡したように見えたトミーも、
原作での彼はバケツで気絶しただけで、直接の死因は
キャリーの念力が起こした火災によるものだった。
倒れたトミーをキャリーがいたわるシーンも元々は無い。
つまりだ。今回は話にある程度の救いを持たせている。
キャリーがトミーとデジャルダンを赦した、という救い。
キャリーが身籠ったスーを気遣い、逃がしたという救い。
それはリメイク版の作り手の優しさだと思う。
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しかしである。
この描写のために、クライマックスシーンから伝わる
『怒り』の念は大きく減じてしまった、と僕は思う。
つまるところ今回のキャリーには理性が残っているのだ。
怒りの表情を剥き出しにし、復讐の快感に笑みをこぼすが、
彼女は狙う相手、狙わない相手を明確に選択している。
ある程度だが、彼女は怒りをコントロールできているのだ。
そこが足りないと感じる。
恋人だろうと恩人だろうと関係ない。誰も彼も
一切合財焼き尽くしてしまうほどの怒り、恨み、憎しみ。
もはや自身では制御できないほどに荒れ狂う憎悪の念が。
主演のクロエ・G・モレッツにも難点があると思う。
彼女からは芯の強さを感じてしまうのだ。
それは勿論悪い特性ではないし、『キック・アス』
『モールス』『 キリング・フィールズ 失踪地帯』
の時のような役にはピシッとハマる。
だが今回の役には逆にな“脆さ”が必要だったのでは?
彼女からは逆境に耐え切る強さを感じてしまい、そのぶん
悲劇性や感情爆発のカタルシスが弱まってしまったと感じる。
さらに手痛いのはプロムナイトの演出。
まずキャリーは登場時からして少し可愛らしい。
最初の登場とプロムナイトでの姿とに大きなギャップが無い。
プロムナイトパーティのシーンも問題だ。しんざんさんも
レビューされている通り、そこに至るまでのタメが足りない。
パーティのきらびやかさも足りず、盛り上がりに欠ける。
一言で言えば、歓喜のエネルギーが足りないのだ。
キャリーにとっての幸せの絶頂を十分に表現しなければ、
その後の悲劇の衝撃も十分なものにはなり得ない。
キンバリー・ピアース監督の演出はそつがない。
原作とデ・パルマ版の要素をさくさくと繋いで、
物語を映画の尺にきっちり収めている。だが、
そつがない分、テンションもなだらかなのだ。
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では、今回のキンバリー・ピアース版がデ・パルマ版に
勝る要素はひとつも無いか? いや、そうは思わない。
技術の進歩も相俟って、破壊シーンの迫力はかなりのもの。
デ・パルマ版ではプロムパーティの炎上シーンのみだった
クライマックスは、今回は原作通り、被害が街にまで及ぶ。
蛇のようにのたうつ電気ケーブルやガススタンド大爆破、
無惨にひしゃげる車体やホワイト家崩壊シーンなども見事。
キャリーへのいじめ行為を動画サイトに投稿するという
アイデアも利いている。ティーンの残酷さには際限が無い。
クライマックスで再度あの動画を用いた点には唸った。
もうひとつ好きな点がある。
ジュリアン・ムーア演じる母マーガレット・ホワイト。
原作でもデ・パルマ版でも独善的な恐ろしい狂信者として
描かれた彼女だが、今回は少し違う。やり方は異常であれ、
彼女の行動は娘を外界から守ろう、自分と同じ道は
踏ませたくない、という意思からのものだった。
“お仕置き”のあと、キャリーと母親が
うすく微笑み合うシーンに心を打たれた。
外界から遮断された母と娘の淡い絆。
これもまた作り手の優しさかしら。
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結論。
今回のキンバリー・ピアース版は優しい。それ故、
原作やデ・パルマ版ほどの圧倒的な負のエネルギーに劣る。
だが駄作ではない。ティーンの残酷さや
破壊シーンの迫力はよく出ているしテンポも良い。
原作・前作を知る身だとどうしても見劣りしてしまうが、
それでも哀しく残酷な青春映画。
原作もデ・パルマ版も知らない方々であれば、
戦慄し、哀しむ余地は十二分にあるだろう。
観て損ナシの3.5判定で。
〈2013.11.09鑑賞〉 ※2013.11初投稿
今更ながらのコメント失礼します。
自分もデパルマ版のが上だと感じます。
初潮を迎えた娘をシバく母親って…。
何よりイカンのはこのリメイク版、クロエが可愛すぎ。
この見た目とブロンドヘアーの時点で学内カースト上位確定でしょ。イジメが妬みにしか見えないよ。ぶちキレた主人公が「オマエラみんな死ね!」ってなるクライマックスも、オリジナルは同情する気が失せる程の暴走っぷりだった気がしますが、こちらの主人公は悲劇のヒロイン感が有り暴走の狂気がいまいち。
まあ何が言いたいかというと、クロエが可愛いって事です(笑)