最初の人間 : 映画評論・批評
2012年12月12日更新
2012年12月15日より岩波ホールほかにてロードショー
カミュという永遠の<異邦人>作家の肖像を的確に表現
かつてアルベール・カミュほど青春期の通過儀礼として熱狂的に読まれた作家はいなかったのではないだろうか。本作はイタリアの俊才ジャンニ・アメリオによるカミュの未完の自伝的小説の映画化である。1957年、世界的名声を得た作家コルムリ(ジャック・ガンブラン)は母が住む故郷アルジェリアを訪れる。家のベッドでまどろむ主人公はやがて回想に入っていく。
厳格な祖母、優しかった母、冗談好きな叔父、みな貧しく文盲だったが、そんな劣悪な環境下でも文学的才能を見出してくれた恩師、喧嘩友達だったアルジェリア人の悪ガキ、すべての光景が地中海のまばゆい陽光と甘やかなノスタルジアに染め上げられる瞬間、無差別テロが勃発し不穏な空気が蔓延するアルジェリアの<現在>が侵入してくる。
ジャンニ・アメリオは、意図的に滑らかさを欠いた<過去>と<現在>が往還する語り口を通して、主人公がアルジェリア戦争への加担を拒否するという苦渋の決断を真摯にとらえようとしている。幼馴染のアルジェリア人の息子が不当逮捕され、断首刑に処されてしまうのだが、その際に、ラジオ放送で、コルムリは「私は正義を信じる。アラブ人よ、私が君たちを守ろう。母を敵としない限りは。もし母を傷つけたら私は君たちの敵だ」と呼びかけるのだ。
カミュはアルジェリア人でありつつフランス人でもあるという分裂の中に身をおく永遠の<異邦人>であり続けた作家だった。いつもはるか彼方を見つめているような眼差しが印象的なジャック・ガンブランは、そんな太陽と海の崇拝者であり、常にストイックなトーンで美しくも倫理的な断章を綴った稀有な作家の肖像を的確に表現している。
(高崎俊夫)