「駄作だった」藁の楯 わらのたて 坂月 行雲さんの映画レビュー(感想・評価)
駄作だった
設定に無理があるとか、「数億円ごときで人を殺める」という襲いかかってくる人間達の動機についてはフィクションとして目を瞑ることが出来るとしても、目を瞑れない部分は色々とある。主に登場人物の心理描写。
まず藤原竜也演じる猟奇殺人犯。
一体どういう過去を持っていたのか。きっと一般人とは違う感性を持っているだろう。なぜなら人を殺める程に異常だから。
冒頭のシーンなどは、そういった異常性を期待させてくれた。
……が、一貫して「ただの猟奇殺人犯」としてしか描かれない。
彼の心理描写は、ほとんどない。
なぜ犯行に及んだのか、なぜ幼女なのか、母子家庭の時にどんな経験をしたのか、なぜ出頭したのか……なぜ、なぜ。
彼の所々の言動の動機を知りたくなるのだが、描写はない。
「ただの後先考えないバカ犯人」だから。とそれで片付ければいいかもしれないけど……
原作がどうなっているか知らんが、具体的にでなくとも、少なくとも何かしら視聴者に「想像させる余地」を与える描写をした方がよかったんじゃないだろうか。あまりにも薄っぺらい紋切り型のペドフェリア殺人犯を投影したところで感じるところは何もない。
藤原竜也の演技は嫌いではないが、物語におけるそのキャラクタの薄っぺらい虚構っぷりが藤原竜也の過剰演技と悪い方向で融合されていて、ちんけなものになっていた。
それは藤原竜也だけではなく、他の演者も同様である。
他の登場人物にも、内なる描写はほとんどない。
もちろん、役者の演技に迫真性があったのは認めるが、あったのは迫真性だけである。個々の演技だけが空寒く突出しているだけ。心理描写をおざなりにした物語全体と、演技そのものが乖離していているので、ラストの大沢たかおの熱演も空々しいだけであった。
結論としては、一般的な感受性をお持ちの方は視聴しない方がいい駄作である。設定だけでただひたすら引っ張り続ける映画。見てて虚しくなった。