「憎悪の楯となれ。」藁の楯 わらのたて ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
憎悪の楯となれ。
原作を読んでいないので、内容は何となくこんな感じか…?
程度の予測、ただ、このタイトル「藁の楯」が非常に気になった。
藁が銃弾からの楯にはならない。のはもちろん承知しているが、
そんな藁一本が楯になる瞬間とは、それじゃあどんな時なのか。
巧いタイトルだな…と思ったので、内容にも期待してしまった。
結果、個人的には非常に面白かった。
まさかそんなことある訳ないじゃん、できる訳ないじゃん、と
いうあり得そうであり得ないシチュエーションが大半、いくら
10億の懸賞金がかかったからといって全国民がクズを殺そうと
企み、あれほどの確率で登場するなんてことは考えられない^^;
整合性を欠いた脚本ではあるが、心理戦が緊張感を崩さない。
久々に中ダレしてない(失礼!)三池映画を観たような気がする。
しかし殺したいほど憎む相手が自分にいた場合、その憎しみと
同等以上の正義感が主人公のように保てるかどうか…が難しい。
SPという任務は、相手が誰だろうと守るのが仕事と分かっていても、
松嶋演じる白岩が何度も口にするように、「殺してしまいましょう」
が出てしまうほどのクズを目の当たりにした場合、やはり人間、
自らの感情に向き合わないことの方がかなり難しいことが分かる。
お前SPだろ!お前警察だろ!と言いたくなるほどの役立たずが
多く登場するこのドラマ、まんまとクズが逃げ果せるかにかかる。
冒頭から一貫して自身の感情を封鎖している主人公・銘苅(大沢)が、
一気に感情を爆発させるラストが凄まじい。
どれほど深い講釈やら考察やら述べる警察方(例えば奥村みたく)
への信頼感は、銘苅が言う通り「10億は山分けしよう」で吹き飛ぶ。
所詮人間なんてものは、金が絡めば善が簡単に悪に染まることを
平気で描いているところがリアルな反面、やはり気持ちが悪い。
そして大勢の理論に流れる信念の矛先。先日観たレッドフォードの
作品でも描かれていたが、誰かが「死刑」と訴えたら100人超が従う。
万が一従わなければ、国家権力をもって抹殺する。
事の真実や正義の在り方なんてどうでもいい。あんな奴は殺されて
当然。それだけのことをしたのだから。捕まえたってどうせ死刑だ。
生まれながらのクズ。という台詞が出てくるが、クズは一気に始末
するべきか、しっかりと分別機にかけて仕分けしてから粉砕するか。
私ならクズが生まれて構成されるメカニズムを知ってから粉砕する。
藤原竜也演じる清丸をいう男を、これほど嫌なクズに描いたことが
大勢の理論・指示を煽ることになるのだろうが、
私にはこういう奴を仮にも釈放してしまう制度の方がよっぽど疑問。
昨今では精神鑑定を潜り抜けた受刑者が、釈放されてはまた同様の
事件を起こしている事が問題視されつつも、ここでやれ「人権問題」を
持ち出してくる意味が分からない。犯罪を二度と引き起こさせない
ための更生機関が幇助に加担してどうするんだよ、と思う。
犯罪を犯罪だと認識できない人間を社会復帰させる危険性をもっと
考えるべきだと思う。
山崎演じる蜷川が一悶着起こすのかと思いきや、幕切れはアッサリ。
藁が憎悪の楯となり、悲しみや苦しみから人間を解放できたらいい。
ともあれ凄惨な事件や理不尽な事故で大切な人を亡くすようなことの
ない世の中を築いていかなければ…と切に考えるばかり。
(遺族の苦しみは果てしない、でも故人は遺族の幸せを願っているはず)