「異常性のなかの一貫性」藁の楯 わらのたて みじ~さんの映画レビュー(感想・評価)
異常性のなかの一貫性
多少のネタバレがあります。
まずは良い点。
まず藤原竜也、大沢たかおの演技は安定してます。特に大沢たかおの泣き表情に訴えかける演技は本当に登場人物のバックグランドがあるんじゃないかってくらい迫真です。
松嶋菜々子は硬派な役なのかもしれないけれど、少し面白くない演技をします。あと機動隊の二人が襲撃に来るときに三白眼になっていたのはすごいなぁと思いました。感情が良く出ていました。
そして悪い点。いろいろあります。
まずは構成。最初に派手で、あとから叙情的。日本映画アクションにありがちな構成で急に物語は失速します。叙情的なシーンは好きです。それがなければ中身のない映画になってしまいますから。しかし、配分が悪いと言わざるを得ません。
そして一番納得いかなかったのが、犯人のキャラクター。小児性愛者の異常性を表現したいのでしょうが、どうにもおかしい。精神異常者は異常性の中にも一貫性があります。羊たちの沈黙のレクター博士のあの脅威の異常性の表現は、そうした一貫性のなせる業だと言えます。なのにこの犯人、何かよくわからないだけの人です。ただの極限状態で支離滅裂になっているだけで、異常と言うよりは疲れてるのかな?と思います。登場当初は大人に対する嫌悪感を表現しながら、途中からはどこ吹く風。かと思えば終盤の暴走。何の一貫性もあったものではない。
母親に対する感情もおかしい。小児性愛者は幼少の頃にまともな環境にいないと言われています。母親に対するコンプレックスや女性に対するコンプレックスが小児への執着に繋がるのだと。なのに急に孝行息子に成る始末。しかも真偽も不明。これなら天才殺人鬼、演技もお手の物みたいな設定にして、全ての行動がSPや民衆、はたまた殺人を依頼した人間までを操っているという感じにしたらいいのに。そしてこのゲームをやるために殺人を犯した、なんて設定だったらサイコさが出て、かつ主人公側に最後まで守りきることに目的が生まれるのにと思ってしまいます。
日本映画は物語をコンパクトにまとめるのが本当に下手だと思います。
以上批判的な意見、失礼しました。