「クズを守るな、己を守れ。」藁の楯 わらのたて 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
クズを守るな、己を守れ。
三池崇史監督が気合を入れてアクションを撮るとかなり面白い……
そういう意見の人間なので、本作は楽しみにしてました。
なので最初に書いてしまうが、
“期待していたほど派手なアクションは無かった”というのが正直な所。
最も大掛かりだった高速道路上の爆破シーンも、
CGや寄りの画で誤魔化してるように見えたので、ちょっとね。
それに、セリフがややステレオタイプなのも気になった点(死に際の遺言等)。
だがサスペンスドラマとしての強度は見事なもの。
犯人・清丸のクズっぷりが増してゆき、
主人公らの葛藤が増してゆくに連れてぐんぐん面白くなる。
あらすじを聞いた時は『10億円を懸けたってそうそう人は殺さないし、
第一警察が止めるでしょ』と思っていたが、この辺りもなかなか。
・有罪判決を前提にした取引である。
・蜷川本人が雲隠れしていて事実確認の手順すら踏めない。
この2点は巧い。
おまけに襲いかかる人間は自分の家族の為に清丸を殺そうとする者ばかりで、
自分の為に10億儲けたいという人間は殆どいない事も後に分かる。
他人の為に動く人間は後先を考えない。だから怖い。
(設定の似ていた『S.W.A.T』などより遥かに説得力がある)
ラスト。主人公・銘苅が清丸を殺さなかった理由。
初めは自分の為。
自分に嘘をつかなければ生きられなかったから。
その後は死んだ仲間の為。
清丸が死ねば、仲間が何の為に死んだのか分からなくなるから。
それでも彼の決断が正しかったのかどうか、僕には未だに分からない。
「死んだ人間は喋らない。喋れないんだよ。」
枯れ草のように痩せ衰えた老人の抱えた、
生半可な綺麗事など吹き飛ばすほどの、深い深い恨みと哀しみ。
そこに共感する。
自分の欲望を吐き出す事しか脳になく、子を想う母の死さえ利用する、感情が狂ったクズ。
そんなのは死んで当然だと心から思う。
けれど。
あの男は自分が殺される時でも相手の激怒を喜んでへらへら笑うだけだろう。
ならばそんな奴に心を振り回される事自体が不愉快だ。
それにあの男を感情に任せて殺してしまえば、
自分が少しだけあの男に近付いてしまう気がする。
「俺はてめえとは違うんだよクズが」と、
相手を侮蔑し罵る権利を少しばかり失ってしまう気がする。
それはどうも、癪に障る。
主人公が清丸を殺さなかったのは、そんな思いもあったのではと、勝手に考えている。
〈2013/4/26鑑賞〉