「そんな時代もあったねと……」ペコロスの母に会いに行く 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
そんな時代もあったねと……
キネマ旬報ベスト10特集として
近所の映画館で演っていた作品。
なんでも2013年キネマ旬報ベスト10で
邦画第1位に選出されたそうな。
実は某誌があんまり好きじゃない自分だが、
劇場の端々でこの不可思議なタイトル
を聞いたり、好きなレビュアーさんが
高評価を付けたりしてたので
なんだか気になっていた作品。
* * *
白状すると、僕の場合、
開巻20分ほどは少しガマンが必要だった。
認知症で仕方無いとは分かっていても、
周囲に色々と迷惑をかけまくるあの
お婆ちゃんに結構イライラしてしまった訳で。
お客さんのほとんどはクスクス笑っていたので、
僕の器が小さいだけかしら。いやはや。
けれど、次から次に繰り出される
ユーモラスなシーンの数々に笑う内、
だんだんと彼女が可愛らしく見えてくる。
彼女の抱えた過去が見えてくると、
ますます彼女が好きになってくる。
* * *
彼女の話は後に回そう。
その他のキャラもみんな魅力的だった。
仕事はテキトーでエロ話にも弱い主人公の
ペコロスさん(呼び易いのでそう呼ぶ)の
気の抜け加減に笑って癒される。
どげんかなる~~♪のポジティブシンキング。
ペコロスさんの息子や親戚、友人たちも
ひとクセあるけど親近感の湧く人々ばかり。
この映画、主役だけでなく、その他脇役にも
しっかり目を向けていて、1人もおろそかに
扱っていない点が好印象。
例えば、介護施設の若い職員さんは
最初と最後では随分成長してるし、
温水洋一は介護への先入観が変わっていくし、
竹中直人は後半でアレを取っ払う(笑)。
誰も彼もが主人公達と共に心境が変化
していて、1人も記号的に扱われていない。
これって、作り手がこの映画まるまるに
愛情を注いでないと出来ない芸当だと思う。
* * *
しじゅう笑わせてくれるのだけど、決して
現実ばなれしたコメディ映画にはならない
バランス感覚の良さも◎。
それに、
長く生き続けること、それを見届けることの
苦しさや悲しさもちゃんと描かれている。
母親の若き日々を描いたシーンは
悲哀に満ちているし、主人公が病院の
階段で座り込んで落ち込むシーンや、
最後の橋の上での“集合写真”なんて、
もう涙が溢れてきて嗚咽を抑えるので
必死だった。
温かい笑いと涙でいっぱいなのだ、この映画。
その温かさの源は、辛い人生を生きながらも
自分を育ててくれた母への深い感謝なんだろう。
* * *
鞠で遊ぶ妹、遠くへ越した友、酒に溺れた夫。
たとえ見る/聞く/考える力は衰えても、
大事な記憶だけは最後まで残るものらしい。
それが幸せな記憶にせよ、辛い記憶にせよ。
波止場でのエピソード。
子どもの頃の記憶の中で、
両親に聞きたくても聞けない事。
そんな記憶、あなたには無いだろうか?
僕にはいくつかある。
ことさらに親に聞く事はしないけれど、
子どもには隠しておきたい苦しい
出来事も沢山あったろうと思う。
あんなに縮こまってしまった身体の中に、
あんなに多くの哀しみが詰まっている。
しばしば邪険に扱ってしまいがちだが、
父や母は自分より遥かに長い人生を
生き抜いてきたサバイバーな訳で。
その中で子どもが少しでも辛い思いをせずに
済むよう育ててくれた親には感謝しかない訳で。
車椅子のお婆ちゃんと
乳母車の赤ちゃんが出逢うシーン。
これも立場が逆転しただけ、育ててくれた
感謝を返してるだけと思えば気が楽なのかな。
* * *
実際に経験した訳じゃないけれど、介護って
そうそう楽なもんじゃないんだろうと思う。
介護がらみの暗いニュースも沢山伝え聞く。
けど、苦しい事を苦しいと言ってたら、
ますます苦しく思えるだけだし、
ペコロスさんも言う通り、
老いる事が悪い事ばかりとは限らない。
人生の“上澄み”だけが記憶に残るのであれば、
楽しく笑える時だっていっぱいあるはず。
中島みゆきの唄にもあるけれど、
辛い過去を笑い飛ばせる日だって来るはず。
もしもこの映画と同じような立場になった時、
ペコロスさんと同じぐらいにポジティブに
向き合えたらと願う。
<2014.03.08鑑賞>
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余談:
にしてもこの映画のキャストの豪華なこと!
それに、若手からベテランまでみんな活き活きと
演じているように見えて楽しかった!
一番笑わされたのは竹中直人。
頭のことが話題になる度にハッと
息を呑むはやめれ(笑)。