ローマでアモーレ : 映画評論・批評
2013年6月4日更新
2013年6月8日より新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマほかにてロードショー
アレンの筋金入りのイタリア映画狂ぶりを堪能できる軽妙洒脱なラブコメ
毎年、律儀に公開されるウッディ・アレンの新作を見ることは、もはやすっかり耳に馴染んだ落語家の<語り>を繰り返し聴くようなものではないだろうか。未知なる驚きは皆無でも行き届いたマンネリズムの芸を惚(ほう)けて味わえばよい。
4つのエピソードが同時進行する本作の舞台はローマで、当然ながらアレンの筋金入りのイタリア映画狂ぶりが堪能できる。突然、なぜか有名人に祭り上げられ、無数のパパラッチに急襲される凡人ロベルト・ベニーニのエピソードは「甘い生活」のパロディだろうし、田舎者の新婚カップルのゆるゆるな受難劇は泥くさいピエトロ・ジェルミの艶笑喜劇みたいだ。若き日の自身を投影したような青年と小悪魔な女優との危うい恋の顛末に、終始、脇でツッコミを入れる建築士アレック・ボールドウィンは、往年のアレンの脚本・主演作「ボギー!俺も男だ」の恋愛指南役ボギーを彷彿させる珍景で笑わせる。
しかし、一番可笑しいのは、アレン自身が引退した元オペラ演出家に扮し、娘の婚約者の父親がシャワーを浴びると天上的な美声のテノールに変貌する才能に目をつけ、彼を猛然と売り出しにかかる小話だ。最後にお披露目されるオペラ「道化師」の<前衛的な演出>も、どこか喜ばしき予定調和な笑いを誘う。かつての神経症的な饒舌はすっかり影をひそめ、老境に入ったウッディ・アレンの緩慢な動き、たどたどしいモノローグが枯れた味わいをかもし出しているのは、新たな発見であった。
(高崎俊夫)