劇場公開日 2012年8月25日

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「映像の世紀-20世紀の初めに生まれたSF映画の、無邪気で遊び心に満ちた映画の原石」月世界旅行 Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5映像の世紀-20世紀の初めに生まれたSF映画の、無邪気で遊び心に満ちた映画の原石

2020年4月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ジョルジュ・メリエス脚本・監督・美術・主演の今作は、その稚拙なトリック表現の無邪気さ故の他愛なさを認めた上で、見世物としての映画に賭ける作者の情熱がSF世界のファンタスティックな夢幻味と純粋に合体して、特別な感動が生まれる。トリック技法を取り入れた映画独特の遊び心が、とても愛らしい。予想に反してというか、いい意味で裏切られて驚いている。素晴らしい映画の一編。
  1979年 5月26日 フィルムセンター

同時上映の「大列車強盗」(1903年・エドウィン・S・ポーター)は、最初の西部劇映画としてアメリカ映画史上記念すべき作品の期待が大きく、特に感動はなかった。それでも、物語の展開を組み立てた努力は認められたし、一コマずつ手彩色された点も面白い。映画に芸術的な価値を見出そうとしたフィルム・ダール運動の第1回作品「ギーズ公の暗殺」(1908年・アンドレ・カルメット、シャルル・ル・バジル)は、映画本来の特質から探るのではなく、一流の舞台や文学を真似するだけに止まっている。映画の芸術性を高めるための試行錯誤の第一歩の作品。それに対して、イタリアでは映画にスペクタクルな面白さを狙った。1914年の「カビリア」がその代表作だが、見学できたのは「暴君ネロ」(1909年・マルトウロ・アムブロジオ)で、ローマ皇帝ネロの残虐振りが描かれている。但し背景がセットの為か歴史劇の迫力がない。「月世界旅行」に並ぶ面白さを感じたのが、悪徳人間ジゴマの犯行を徹底して描いて当時の社会に風俗問題を起こした「ジゴマ」(1911年・ヴィクトラン・ジャッセ)だ。周防監督作品「カツベン!」ではヒロインが好きな映画の設定になっている。純情可憐な少女が好む内容ではないのが、妙に合っていた。ジゴマのふてぶてしい表現が異様な迫力に満ちて力作。「マックスとキナ入り葡萄酒」(1913年・マックス・ランデー)は、パントマイム芸を生かした軽快な喜劇。喜劇王チャップリンに影響を与えたフランスの喜劇人として有名である。個人的には、後のルネ・クレールに通じる洗練されたフランス喜劇の味わいがあって興味深く観ることが出来た。
D・W・グリフィスが1915年に制作した「国民の創生」で映画文法が確立する以前の短編無声白黒映画たち。すでにジャンルは、SF・西部劇・舞台劇・歴史劇・犯罪劇・喜劇とバラエティーに富んでいる。なかでもフランスの3作品が優れていた。特にメリエスの「月世界旅行」は完成度が高い。

Gustav