「レ・ミゼラブル レビュー~観終わって「IMAX」でやっている映画館を探してしまった程何度も見たい作品~」レ・ミゼラブル(2012) 覆面A子さんの映画レビュー(感想・評価)
レ・ミゼラブル レビュー~観終わって「IMAX」でやっている映画館を探してしまった程何度も見たい作品~
私が最初にレ・ミゼラブルを見たのはロンドンのミュージカルシアターでした。
実に今から四半世紀前、20歳になりたての頃だったかと思います。
その時の音の洪水や臨場感は今も記憶に鮮明に残っていますが
今回映画を見て、舞台に負けない迫力を感じ、
「あーもっと音の良い映画館を選べば良かった」と後悔したほど
ヒュージャックマン主演の「レ・ミゼラブル」は良い映画でした。
当然、四季のレ・ミゼラブルも何度か観ましたが
日本語版の歌詞より原版の歌詞の方が奥が深く、
また英語が苦手な私には、
今回の様な字幕が流れる方が「歌」と「筋」を切り離して楽しめました。
故に違う歌詞(セリフ)をハモらせて歌うくだりなんか
舞台の臨場感とは別の素晴らさを感じることができました。
もともとこのミュージカルは
例えば時間軸とか、場所とか、革命とか、
小さな舞台におさめきるのが難しい作品だと思っていましたが
この映画では実に見事に描き切っている様に思います。
なかでも特筆すべきは
ヒュー・ジャックマンの振り幅広い役作りと力鬼気迫る圧倒的な眼光、
そして表現深い美声だと思います。
まず役作り・眼光について。
彼はこの映画で短期間の間に-7kgから+8kgまでの体重増減を行ったそう。
舞台では袖であっという間に時を超える必要があるこの作品が
映画の、しかもヒュージャックマンならではの説得力で、
ジャン・バルジャンが背負った「人生の重み」を見事に描き切っています。
最初の囚人時代の「人を憎み切ったギラギラの奥目」と
最後の老人時代の「神に誠実であったかの自責に怯える奥目」との間には
実に何十年もの年齢層を感じさせます。
深みが、愛情や苦しみが、本当に丁寧に滲み出ていて
皺の一本一本までが演技をしているかの様に感じました。
そして次に歌声。
これにはもう本当に頭が下がりました。
トム・クルーズのトロトロなロックも凄いって思いましたが
彼の奥行きを感じさせる深い美声は何!?
凄すぎるよヒュー・ジャックマン、本当に痺れました。
本当カッコ良かったです!
さて、レ・ミゼラブルにおいて忘れてはいけない
主要キャラたちの押さえもしっかりしてました。
ラッセル・クロウの描く宿敵・ジャンベールもまた素晴らしい!
歌声ももとバンドのヴォーカルをやっていただけあって「星よ」とか、かなりのもの。
アン・ハサウェイ演じるファンティーヌの切ない「夢破れて」も良かったです。
コゼットを思う青年マリウスに片思いして歌うエポニーヌの「オン・マイ・オウン」も。
しかし、この映画、レビューを見る限り賛否両論の模様ですね。
ミュージカルの「歌って進むストーリー」に違和感を感じる人は
確かに全然感情移入できないだろうし、話の唐突感とか違和感や嫌悪感を感じるかも。
逆に舞台が好き過ぎて2Dの映画に浅薄さを感じてしまう人も
「これは舞台だから映えるもの」「いっそ普通の物語展開にしてほしかった」と
思うのかもですが、私は舞台の肉感をイメージして3Dに重ねて見てたので
心から楽しめました。
さて。
最後にネタバレなのですが
(といってもあまりに有名すぎる話なので「ネタバレ」もないけど)
ジャンバルジャンを負い続ける
ジャヴェールについて書きたいことを。
一応少し段を落とします。
最後、死んだ者たちが一堂に(天国で?)歌うの「民衆の歌」のシーン。
当たり前かもしれないけどジャヴェール警部はそこにいません。
あくまで価値観が違うから、あの場にいなかったのでしょうか
それともやはり「自死」というのは「殺人」よりも
キリスト教的観点において罪深いことなのでしょうか。
(衛兵を殺したであろう革命を目指した若者たちもいた気がするので)
あれだけ敬虔に神を信じ、パン一つの「盗み」をも背徳とするジャベール、
その彼が、
(おそらく不幸な生い立ちから這い上がってきたであろう)自分よりも
ジャン・バルジャンのそばに神が寄り添っている様に感じた時、
彼は「神に裏切られた」絶望を感じたのではないか、と。
そう考えると無性にジャヴェールが不憫に思えて来ました。
神に熱心に寄り添うべく正義を順守して来た彼よりも
神は罪を犯したジャンバルジャンに
やすやすと地位や名誉を与え、美しい娘を与え、仲間を与え、
「優しい心」を与えるのだから。
ジャヴェールが24601号を追いかけに追いかけ、奪いに奪っても
彼のもとに光は当たり、最後、そんな彼から命の施しを受ける。
ジャヴェールはいっそ、革命家の若者達に殺された方が
よほど魂が救われたのかもしれない、と。
主題のレミゼラブル「Les Misérables」(悲惨な人たち≒ああ無情)における
一番のミゼラブルな人はひょっとしてジャヴェールかもしれない…なんて
そんな風に感じてしまいました。
とにかくもう一回、見に行きたいと思いました。
特に音響の良い映画館で、もう一回見てみたいです。