「なれないからこそ。」映画 妖怪人間ベム ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
なれないからこそ。
最近のアニメ版や実写ドラマ版は見ていない。
妖怪人間ベムと聞くと、やはり原版のあの怖~い絵図と雰囲気、
それにひきかえ軽快なテーマソングが思い出される…^^;
子供心には、かなり怖かったのだが、しっかり見ていた記憶が。
人間を救うために戦っても戦っても報われないバケモノと謳われ
容赦なく攻撃され続ける3人。もう、辛いことこの上なかった。
ましてやこれが子供向TVアニメなのだから、当時ってホント凄い。
こういった差別・破壊・孤独などのテーマから逃げない姿勢だった
(というか現状だった?)当時のアニメは、見ていてとても心に
残ったものだけれど、今ではどのアニメもマイルドに仕上げられて、
残酷と謳われるものは(心に訴えない)スプラッターばかりになった。
意味もなく人間が大量虐殺されるドラマなどでは、
この犯人は人格破壊者なんです。で定義されて納得を促されるが、
理解し難い主人公の内面を抉らずに恐怖だけを植付ける無鉄砲さ。
観た後で陰鬱な気持ちになり考えさせられるのは前者の方である。
しかしホント、怖かったなぁ…あの顔が^^;
大変失礼ながら世が世なら(あの頃は)いわゆる顔面を題材とした
からかいの対象が常にこの「妖怪人間ベラ」だった気がするのだ。
そしてもしこれを実写でやるなら(これも思い切った選択が必要)
当時のブス代表格だった研ナオコ様(ごめんなさい)だったなぁ~と。
でも例えば「アンタは妖怪人間ベラだ、研ナオコだ、」と言われても、
それを笑いに代えられる懐の深さが、双方に健在した。
現在も美人だブスだとゲーノージンやキャラクターは弄られるが、
そんな話題を提供される立場であることは人気者の象徴であり、
今じゃ大久保姐さんなんか引っ張りだこになっているじゃないか。
印象に残る場面って、そんな人間の懐の深さに起因してきたんじゃ
ないかと、最近では思う。
ここで描かれる御三方(妖怪人間)を観れば自ずとそれが分かる。
自分らに悪意を持つ人間達を、どうして助けられようか。
…人間には、いい人間と、悪い人間がいる。と懸命に納得する姿。
人間には善と悪があり、それが合わさって構成されている事実、
そしてその善悪が同居した人間に、自分達も成りたがっているという
どうしようもない矛盾。もともと差別意識なんてものが存在しなければ
人間も妖怪も皆ハッピーで一緒に生きられたかもしれないのに…。
深く根ざした暗い問題をテーマに、アニメ時代からの風情を受け継ぎ、
容赦なく残酷性を発揮した本作には敬意を表したい。
人間は善だけでは成り立たない事実と、悪だけでは破綻する事実、
恨みから妖怪化し、自分を苦しめた関係者を次々と殺してしまう母親。
それを救うべく、ギリギリのところで愛情を持たせて食い止めた彼らに、
科学の救世主のように謳われてきた製薬会社が魔の手を延ばす。
どっちがバケモノだよ!?と思わずにはいられない展開に息を飲む。
ベム(亀梨)、ベラ(杏)、名前の無い男(柄本)、とノーメイクでOK♪な
素晴らしいキャスティングに比べ、ベロ(福くん)の愛らしさがずいぶん
極端なイメージが強いが^^;
優しく人間達と絡むベロの活躍にはアニメ時代から泣かされてきた。
どうしてこんないい妖怪が人間になれないの!?と思った昔が懐かしい。
なれないところが貴重だったんだね…。
(悪役面の北村一輝がなんと善人役!橋之助の役といい、驚きに満ちてる)