「『泣いてもいいから前を向け!』愛しい愛しい前進映画」柔道龍虎房 Katkatさんの映画レビュー(感想・評価)
『泣いてもいいから前を向け!』愛しい愛しい前進映画
『泣いてもいいから前を向け!』
はい、姿三四郎オマージュ作品です。
黒澤監督リスペクトですが、作中に出てくる主題歌はドラマのやつ。香港でも放映していて、ちょっとした柔道ブームがあったそうです。
ジョニー・トー監督は(辛い?キツい?展開が多い)香港ノワール系の旗手でもありますが、「柔道龍虎房」を観てきっと優しい人なんだ、と思い至りました。
「登場人物が全員どこか変」なこの映画。
そのへんてこりんさの引っ掛かりと、まるでフランス映画観てるみたい(笑)なエモーショナルなシーンがとてもいい。
初見から何かヘンテコだけど何か愛しい、好印象映画だったのですが。
何かすごくいい、からまた観る。中々中毒性の高い作品です。そして何回か観ると色々なことに気付く。
★こっからネタバレあり。
「どこまでもどうしようもなく駄目」な、立ち直る前のシト・ポウですが彼を取り巻く周りがね、優しさに溢れてるんですよ。何も言わないけどシト・ポウの元々の柔道への真摯な誠意をきっと知ってるんだ。
トニーにやられちゃう前任サックスの人も何かシト・ポウ庇ってトニーに向かっていってたし。
借金やら納金不足で迷惑かけてる(お店のお酒横流ししたのに「在庫切れてる買っとけよ」しか言わないし。)バーのオーナーにも復活後試合いをお願いしてる。オーナーも柔道関係者なんだ。そして、びっくりするくらい大人気なくて、「飲茶飲茶」言ってる黒社会なマン兄貴。遅刻した手下をカッターナイフで切りつけるようなヤバい人なのに、シト・ポウにはなぜか優しい。(お金をくれたり。笑笑)それにしてもシト・ポウはなぜ彼のバッグを付け狙うのか。ぬいぐるみシュールでおかしかったなぁ。笑笑
まぁ「なぜ優しい」のかって、マン兄貴言ってたけどね。「忘れてるようだが俺達は知り合いだ」って。復活したシト・ポウに「柔道王」って呼ばれた時、すごく嬉しそうだったもんなぁ。つまりシト・ポウとは柔道界ではそういう存在だったんだ、と。そういえばあんなに駄目駄目なのに、師匠や道場には一貫して真摯に礼を尽くした態度だったもんね、シト・ポウ。
この映画には2人の妖精さん(笑)が出てくる。
まぁシト・ポウも妖精さんっぽいっちゃ妖精さんっぽいけど。笑
1人は師匠の息子ジンちゃん。「俺は三四郎、君は檜垣」と言ってにっこり笑う。絶妙のタイミングで三四郎のテーマを歌う。彼は知的障害の青年だと思われるが、離しても離しても道場に舞い戻り三四郎を名乗る、柔道への無邪気な愛の体現のような妖精さん。
もう1人はトニー。本当ベビーフェイスだな、アーロン・クォック。ルイクーより5歳も歳上なんだよ、この時何と38歳!!せいぜい30歳いってないくらいにしか見えん。ただただ強敵と試合いたい、柔道で闘うことしか考えてない謎の風来坊。なぜサックス吹けるんだ。やっぱ風来坊だからか。(風来坊といえば独演できる楽器できないとな。笑笑)
彼がシト・ポウの柔道へのカンフル剤になったのは確かだけど、もう1人強烈な登場人物が。
前しか見てないシウモンちゃんはとても心が広い。シト・ポウ、シウモンちゃんをぶつんだよ!流石に「女の子をぶつとは!そりゃいかんシト・ポウ!!!」と思ったけど、その後もシウモンちゃんは前しか見てない。そして根に持たないしシト・ポウを恐れない。(「…ごめん…」って謝ってたけど。ここは文化の差か私の性格か、女の子ぶたれるのは嫌だったなぁ。)
歌手になるんだ!絶望だって感じてる。破茶滅茶やってパパに迷惑もかける。でもスタァになるんだ!
この強烈な前進志向がシト・ポウに再び感情を呼び起こす。シウモンちゃんはシト・ポウが立ち直るために尽くしたりしないよ!!ただ一緒にいて、ほんのちょっぴり痛みを共有して、ただそれぞれに突っ走るだけだ。それが清々しい。
そして何も見えていなかったシト・ポウ(物理的ではなく絶望により見なかった)は物理的でない視界が蘇えってくると、柔道への渇望と柔道を通じた温かな人達への感情を取り戻す。
恋愛描写が皆無なのもいいんだよね。恋愛描写入っちゃうとシト・ポウvsシウモンちゃん、になってしまうんだけど、あくまでシト・ポウvs皆、な視座がいい。
胸がキュッとして泣けるけど不必要にウェットじゃない。はっとするけど説教くさくもない。
ジョニー・トー監督、優しいね。「泣いてもいいから、前を向け」ってそのままで泣ける。本当いい映画だ。
ちなみに、ルイクー祭りで20作くらい観たのですが。ルイス・クーって実はどんくさいんですよ。(笑)ご自身も「歌とダンスは苦手、運動は苦手」とおっしゃってる。
柔道龍虎房のキモは、シト・ポウの様子のおかしな動きなんだけど。走る姿とかも何かぎこちないのね。で、対するトニー、アーロン・クォックは、「舞王(ダンスの王様)」と呼ばれるダンスの名手なんですよ。つまり運動神経めちゃめちゃいい。
物語的には視覚障害が原因なんだけど、このルイス・クーのけったいな動作に気付いての起用なら、ジョニー・トー監督すごすぎる。(というかルイス・クー好きすぎ??笑笑)
ルイス・クー、2007年の「導火線 FLASH POINT」撮ったウィルソン・イップ監督に「8年前に撮った時は変な走り方だったけど(身体能力)向上してる」とか言われてるし。(笑)撮影仲間界ではルイス・クーどんくさい、は有名なんじゃないかな。そしてそれを画面上で克服するための努力がすごいんだと思う。
トワウォの龍捲風は最強だったもんね。谷垣さんだって言ってた。「誰でもがドニー・イェンやジェット・リーみたいに動けるわけじゃないから、演者を格好よく仕上げるのが我々の仕事」って。
(このコメントで特別に人外動作なお2人出してくるのもまた。笑笑)さらに谷垣さん、トワウォのメイキング動画で「ルイス・クーはいつも本気」っておっしゃってたのも「いつも全力で向き合ってる」って事なんだろうな。(いやぁアクション映画ってタイヘン)
そういう一生懸命なルイス・クーご本人とも(勝手に妄想で)被って、やっぱりすごくいい映画なのです。
また映画館で観たいなぁ。(≧∀≦)