「バブル崩壊とそこからの再生の物語として観れるように上手く翻案されています」北の零年 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
バブル崩壊とそこからの再生の物語として観れるように上手く翻案されています
序盤から泣き通しでした
正直自分でも単純な奴だと呆れはてます
感動的な音楽、感動的な映像、感動的な台詞
ズルい、あざとい、卑怯だとまで思います
ここが涙腺のスイッチなんだろ?
ほれ、と簡単に手玉に取られてしまったからです
問答無用と力づくでねじ伏せられて、強引に泣かされていたのです
とくに音楽は大袈裟なくらい格調高く、感動を強制的に盛り上げるほどの素晴らしいオーケストレーションでした
これ誉めてます、念のため
悔しいけれど、監督にしてやられました
でもこれで良いのでしょう
行定勲監督は要求された仕事を完璧にこなしています
吉永小百合の映画として完璧だったと思います
その意味でプロフェッショナルです
やはり吉永小百合はやはり凄い女優です
なんだかんだ思っていても画面に映っていればそれで、ねじ伏せられて納得してしまうのですから
でもなんか悔しい、卑怯だ
ただ殿がきたぞー!って言葉遣いだけは勘弁して欲しかったと思います
物語は実話を元にした翻案で、実際は殿様はもっとましな人物であったようです
領民を捨てずその地で住んで開拓に尽くしたようです
星5個にした本当の理由は別にあります
バブル崩壊とそこからの再生の物語として観れるように上手く翻案されているからです
バブル崩壊は北海道経済を特に苦しめたのです
北海道経済経済の心臓とも言える北海道拓殖銀行は1998年11月に破綻、そこに北海道を代表した企業の雪印もあの集団食中毒事件を起こして経営が大混乱に陥ったのです
北海道経済は、本作中盤の大吹雪のシーンのように立ちすくんだいたのです
それは北海道だけでなく全国でも同様に日本経済は大吹雪のなかに埋もれつつあったのです
名のある大企業でもリストラは広く大規模に行われて、親会社の都合ひとつで、子会社や事業部門まるごと売却されたりしていたのです
稲田藩の人々のように会社から簡単に捨てられたりしていたのです
実際、親会社から捨てられて、事業部門や工場が丸ごと切り離されて会社として独立した例も有りました
しかしそんな新会社の設立を主導した幹部が、やっぱり上手く行かないとなると真っ先に逃げ出して行ったところもあったようです
小松原英明のような男は本当にいるのです
この時、日本の終身雇用だとか、家族的な会社経営なんか信用できないと、誰しもが思うようになったのが本作公開の頃であったと思います
心の中で日本のサラリーマンはちょんまげを切っていたのです
経営幹部でもない一般社員は一体どうしたらよいのでしょうか?
静内を大八車に家財道具を乗せて逃げ出す人々のように、宛てもなく会社を辞めて一体家族を養えるのでしょうか?
結局、本作のラストシーンのように各自の目の前の仕事を一生懸命に日々やり遂げるしか仕方ないのです
本作の本当の感動的シーンは一体どこでしょう?
それは石橋蓮司の演じた堀部様が、渡辺謙が演じる小松原英明に立ち向かい、そしてかっての稲田藩の人々が一緒に立ち上がったシーンだと思います
親会社に捨てられて、ライバル会社に吸収合併されて卑屈に働いていた社員達が一斉に立ち上がったようなものです
子会社が独立した時の幹部が、そのかってのライバル会社にちゃっかり幹部に収まっている
そいつがいきなり古巣に乗り込んできて、大規模なリストラを要求してきたようなものです
そんな事例は大なり小なり実際に体験したり、身近に見聞きしていたことです
そして馬の奔流のカタルシス
この現代とのアナロジーを意識したクライマックスは高く評価したいと思います
だから悔しい、あざとい、ズルい、卑怯だ、とまで思っても
星5個をつけざるを得ないのです