話の話のレビュー・感想・評価
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美しく不思議な芸術作品
数年前どこの劇場で観たのか 都会の小さな映画館だった。 その美しさだけが記憶に残っている。 描き込まれたアニメーションというより 命を与えられたアニメーションがふさわしい 本当の芸術作品。 ※
ウシとリンゴと戦争と
ユーリー・ノルシュテイン監督作六本目。 監督の集大成。 鑑賞した全5作の要素を少しずつ取り入れていて、5本の中で最も難解で不気味な30分。 タイトルの通り“話の話”。 監督自身の幼少期の記憶を反映しているそうで、3つの物語を繋ぐストーリーテラー的なオオカミは、きっと幼少期の監督なのでしょう。 この話の中の3つの話。 ないようなあるような。内容がないようなんて… 人々の高揚感、戦争、童話的世界、男と女、光と闇、まさにまとめの6本目に相応しい。 光る紙に手を触れ、横の男性がニヤリと笑い、逃亡→赤ちゃんの流れは本当にホラーだった。 木の葉の落ちた池の魚は『霧の中のハリネズミ』の答えだったのか。 わからないからこそ考え深みにハマる。 考えれば考えるほど面白くなっていく『劇場版 バーニング』のような作品。 何故か共感してしまう自分もいたりいなかったり…
はじめてみるもの、ふれるもの、それは素敵なたからもの。
2020年5月6日 映画 #話の話 (1979年)鑑賞 ロシアを代表する世界的アニメーション作家ユーリー・ノルシュテイン監督の作品。セルロイドに緻密に描き込まれた切り絵をベースにした短編アニメ。 反戦映画。代表作のひとつで狼の子を狂言回しに戦争の引き起こす悲劇と平和の大切さを描いた寓話的叙情詩
旅の終わりにふさわしい1本
監督作品6作目、ノルシュテインの監督業の軌跡を2K修復画像でたどる旅も今回が最後になる。 また過去の5作品がほぼ10分ほどで完結したことに比べると、今回は29分とかなり長い。 灰色オオカミの子どもがなんらかの行動をしている「話」を軸として、絵のタッチは和紙に淡い線で描かれたようでどこか現実離れした場所で巨大な牛に縄跳びの縄を回してもらい少女が飛び跳ねている不思議な「話」、出征する兵士たちとその妻たちの「話」、青りんごを食べる子どもが自分の食いかけのりんごをカラスにも分け与える「話」の3つが絡む。そこで「話の話」というタイトルなのだろうか? それぞれの「話」で絵柄が全く違うところも本作の見所の1つである。 お話に出てくる家はノルシュテインが幼少時に住んでいた家らしいので、おそらく灰色オオカミはノルシュテイン自身を投影したキャラクターなのだろう。 物語は乳を飲む赤ん坊のアップのシーンから始まり、灰色オオカミが泣き叫ぶ赤ん坊をゆりかごに寝かせてあやす。その後上記の他の3つの話が順番に登場し、誰もいなくなった家から橋へと画面がパンをする。姿は見えないもののノルシュテインが幼少時に好きだったという汽笛などの蒸気機関車の音とともにタンゴが流れてきて「話」の幕は閉じる。 ナレーションも一切なく時系列で物語が進むわけでもないのでいささかとりとめのない印象を受ける。 共同監督ではあるが、ノルシュテインの監督第1作目『25日・最初の日』にも授乳するシーンはあったが、前回は焦点が当たっていたのは母親だったのに対して本作では赤ん坊に焦点が当たっているのが興味深い。 シーンとシーンをつなぐ道具として、またこの物語の象徴として登場する青りんごが、雨に濡れそぼるシーンが2度ほどあるがどのような意味が内包されているのだろうか。 前作『霧の中のハリネズミ』では水のシーンは実写合成だった。 本作では1枚の葉が水上に舞い落ちるシーンがあるが、ノルシュテインはそれを墨の濃淡のような卓越した技法で表現した。やはりここにも前作と同様に水墨画の影響が見て取れる。 難解な作品と言える。が、だからこそ観た人それぞれが、美しい映像から紡ぎ出されるいずれかの「話」に幼少時の想いを馳せることができるかもしれない。 第3作目の『キツネとウサギ』以来、奥さんのフランチェスカを美術監督に迎えて二人三脚で作品を制作しているわけだが、実は美術はこのフランチェスカが1人で担当しているようだ。 インタビューおいてノルシュテインが奥さんを「オーチンハラショー」と誉め称えていたのも当たり前である。奥さんなくして彼の偉業はありえないのだから。 フランチェスカは出征する兵士たちと妻たちがタンゴを踊るシーンをわずか1日で描き上げたそうだ。 今回筆者が鑑賞した2K修復版Blu-rayは去年ノルシュテイン生誕75周年記念として日本で上映された映像をソフト化したものである。 フィルム上のゴミやキズを取り除いただけでなく色味もノルシュテインが記憶する当時の色に近付けている。 ソフト化に当たっては上映時からさらに1度補正をしてノルシュテインの承認を得ているようだ。 またDVD版には監督作品6作の他にノルシュテインがスタッフとして参加した『愛しの青いワニ』と『四季』が収録されているが、それらは本来彼の監督作品ではないことを考えれば今回2K修復してソフト化する際に収録から外されても問題ないだろう。 以前TV東京の番組『Youは何しに日本へ?』を観ていたところ、ノルシュテインを知らないスタッフがタイトル通りに彼にインタビューをしたわけだが、松尾芭蕉を愛し「芭蕉は単なる俳人でもなく旅人でもなく僧であり人生の奉仕者」であると深く理解している彼はたびたび日本を訪れているようである。 今年76歳の彼が1980年からかかりきりのゴーゴリ原作の『外套』はいまだ完成していない。 正直なところノルシュテインに残されている時間は短いだろう。一ファンとしてなんとしても完成してほしいと願うばかりである。
色褪せることのない、永遠のノスタルジー。
30年以上前、吉祥寺のバウスシアターで初めて観た時から まるで自分自身の想い出のように、 記憶の片隅に置き去りにされたままの、アニメーション映画。 「話の話」は30分間の美しい映像詩であり 「永遠のノスタルジー」でもあり、 ソビエト時代のロシアが生んだアニメーションのバイブルである。 バッハの調べをBGMに、海を臨む丘に住む家族の日常。 灰色オオカミの子の丸い瞳に映る、眠る赤ン坊と つぶやきのような子守歌。 古いタンゴを踊る、小さな町の男女。そして戦争…。 雪が降り積もる公園のベンチで、言い争う男女、リンゴを齧る子供。 すべてが不思議に懐かしい。 色味を抑えたセピアのような映像と、静かな音楽、交差する光が 誰かの(つまりはユーリー・ノルシュテイン監督その人の)夢の中に、 観ている私たちが入り込んでしまったような錯覚を抱かせる。 これまでにスクリーンでも何度も観てきたし、DVDも持ってはいても 今回の上映は、2K修復によるデジタルリマスタリング版で ノイズなどもキレイになり、大画面で見るに堪える美しさとなっている。 映画サイトなどではあまり話題に上らない地味なロードショーではあるが 思いがけず多くの観客で劇場は埋まっており アニメーションの世界における、ユーリー・ノルシュテイン監督の偉業と 日本における人気の高さを再認識した。 久しぶりに心から堪能した、「永遠の、そして不滅の30分間」。 ありがとう。 ※私のアイコンには、何年も前から お気に入りのこの作品の主役「灰色オオカミの子」を 借用しています。
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