「またしても美人がいい!」海外特派員 KIDOLOHKENさんの映画レビュー(感想・評価)
またしても美人がいい!
ヒッチコックには、いくつか政府の依頼で作ったとしか思えないようなプロパガンダ映画がある。これも、あらすじを少し読んだだけでいかにもその類に見えた。だから私は長い間、この映画を避けてきた。今回ようやく観たのは、日本でもアメリカでもレビュー評価が非常に高かったからだ。
観終えてみると――単なるプロパガンダ映画ではなかった。
ヒッチコックらしさが随所に光っていて、映像的にも物語的にも惹きつけられた。特に風車のシーンが印象的だ。飛行機の使い方は違うが、のちの『北北西に進路を取れ』を思わせる迫力があった。あの風車、どうやって撮影したんだろう?現実離れした異様な雰囲気が漂い、まるで別世界に迷い込んだような不穏さがあった。内部の立体的な構図の妙も素晴らしく、映像の奥行きとサスペンスの融合が見事だった。
そこに至るまでの展開は正直、何を狙った映画なのかつかみづらく入り込めなかった。だが風車の場面で一気に惹き込まれた。その後の悪役による襲撃シーンはややもたつきがあり、犬の登場には首をかしげた。逃走劇の映像自体はスリリングで、ビルを俯瞰で捉えたカットなどヒッチコックらしい奇妙な魅力があった。HOT HOTELという文字が妙に不気味で印象に残る。
さらに終盤、ちょっとした叙述トリックを使って犯人を追い詰めるくだりも秀逸で、ヒッチコックのアイデアの冴えが感じられた。
全体としては少しドタバタしており、私は日本人なので登場人物の名前や顔を覚えづらく、話の整理に少し苦労した。ラストのアクションは「まだ続くのか」と思うほどくどく感じたが、演出の力で最後まで引っ張られた印象だ。
脚本自体は決して洗練されてはいないが、ヒッチコックの演出力で独特の魅力を放つ作品になっている。結局のところ、これは確かにプロパガンダ映画ではある。だが同時に、ヒッチコックらしい映像の妙味に満ちた、極めて個性的な一本でもあった。
