鍵を握る女
劇場公開日:1946年8月15日
解説
「女生徒と教師」に次ぐ佐々木啓祐演出作品。
1946年製作/67分/日本
配給:松竹
劇場公開日:1946年8月15日
ストーリー
露路の突き当たりに貧しい人々のために久しく温かいねぐらとなって来た竜平荘というアパートがある。ここの管理人吉田とよは十数年前良人と別れ長女の節子とバスの車掌の次女芳枝を女手に抱えてアパートの連中から尊敬されている。ところがこの建物の持ち主である高橋は住宅難に便乗して一儲けをたくらみ竜平荘をホテルに切り替えようと運動を始めた。もちろんアパートの住人達は絶対反対である。今ここを出たら明日から寝る処もないのである。高橋の番頭森本は個人個人に対して切崩し戦法をやり始めたが、とよさんの立場に同情している住人達はなかなか雀の涙ほどの金では動かない。しかしたった一人沢山の子供を抱えている安月給取りの阪本は高橋から金を貰ったが、彼も家へ帰って考えてみるとみんなとの約束を破ってまでそんな不義理な真似は出来ないと、金を叩き返しに行った。ある日ヤクザ風の不気味な男が、高橋の旦那に頼まれたと言って強談判に来たが、彼は管理人室の名札を見ると、顔色を変えて逃げるように出て行った。それはかって散々極道をした揚句、妻子を犬猫同然におっぽり出して女と逃げたとよの良人岩吉の落ちぶれた姿であった。岩吉は美容院から帰る節子に逢った。節子は岩吉を家へ引っぱって帰った。そして彼はとよから涙をこめてヤクザから足を洗ってくれと泣言された。その夜竜平荘を尋ねて来た岩吉は意外にも高橋と一緒であった。岩吉はこれ以上アパートの人達を脅かそうと言うのではなかった。逆にそこで高橋と強引な膝詰談判で今後ホテルに改築することは取止め今後住居人の同意なく部屋を取りあげることなしとの誓約書に判を押させてしまった。用が終わると岩吉は又寂しそうにアパートから出て行こうとした。が彼の後を追うように「お父さん家へ帰って……」と節子が呼び止め、三人の明るい涙にぬれた眼が、父岩吉の甦生した姿に注がれた。