劇場公開日 1959年6月23日

「可憐な芦川いづみの表情は必見」その壁を砕け papatyanさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5可憐な芦川いづみの表情は必見

2022年7月4日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

新潟駅で待つ恋人・道田とし江(芦川いづみ)に会うため、車でたまたま通りがかった町で冤罪をかけられた渡辺三郎(小高雄二)。一度逮捕した犯人を、おいそれと無罪に出来ない警察組織。
曖昧な目撃証言による冤罪映画の名作があるけれど、「その壁を砕け」も隠れた傑作。よく練られた新藤兼人の脚本、名キャメラマン姫田真佐久の撮影、伊福部昭の音楽、孤高のモダニストと呼ばれた中平康演出など、ベテラン映画人の仕掛けに時間(上映時間100分)も忘れて物語に引き込まれる。
日活黄金期の女優“芦川いづみ”の可憐な笑顔、悲しみ、怒りの表情は必見。
事件の被害者が三郎を指差し「この人です!」と言う曖昧な演技が実にリアルな岸輝子は、劇団俳優座の名優で多くの舞台に立ち、映画でも多くの名作に出演しています。
法廷シーンも映画の見どころの一つ。裁判長役の信欣三が登場すると、社会派ドラマの雰囲気が増す。決定的な証拠がないまま、曖昧な目撃証言で起こる冤罪事件に恐ろしさを感じる。三郎の弁護士役・芦田伸介は、TVドラマ「七人の刑事」の沢田部長刑事役が印象深い。日活アクション映画の常連で、悪役が多かった。「その壁を砕け」では、三郎・とし江を助ける良い弁護士。
映画は、新潟、長岡、柏崎、佐渡へロケーション撮影しており、昭和時代の駅や街並み、度々登場する蒸気機関車、佐渡の桶船などの風景は、昭和時代の映画ならでは。蒸気機関車がトンネルに入ると、機関車の吐く煙が客車内に充満する細かな脚本と演出がリアル。お薦めです。

papatyan