母恋鳥
劇場公開日:1958年9月14日
解説
亡き母への慕情を一羽のカナリヤに寄せる子供を軸に、素直な童心の世界を描いた作品。監督・脚本は「群衆の中の殺人」の中川順夫。撮影は福田寅次郎が担当。主演は「毒蛇のお蘭」の小畑絹子。ほかに、堤真佐子・渋沢準・森肇などが助演。
1958年製作/51分/日本
配給:新東宝
劇場公開日:1958年9月14日
ストーリー
岡谷町は長野県諏訪湖のほとりにある。湖上を諏訪町から定期船がやってくる。松崎親子は今年大学を出て、この町の小学校に赴任した新米の先生だ。クラスには、照男・三平など腕白小僧がそろっていた。--照男の家は貧しかった。父・浦島定二郎は国鉄の機関士だ。母親の美子は永い間、寝たっきりである。子供が四人いた。美子の姉・お郁が諏訪からやってき、妹の病気が直るまで子供らを預ろうと申し出た。照男だけは母と別れるのをいやがった。父はその気持を察し、彼を手許に残すことにした。お郁は病気見舞いに一羽のカナリヤを置くと、子供らを連れて定期船で帰って行った。照男は夕暮れの船着場で弟妹たちをいつまでも見送った。--親子三人だけの生活が始った。照男の学校での腕白は一向におさまらない。--松崎先生の弁当箱に蛙のオモチャを入れて困らせたりした。松崎先生は照男に愛情を感じ、どこかゆがんだ彼の性情を懸命にため直そうとした。--突然、美子の病状があらたまった。母は照男の手を握って最後の言葉を残した。「お母さんはお前だけが気がかりなの。先生にいたずらしない良い子になってね。明日からは、このカナリヤをお母さんと思って、--カナリヤが鳴いたら、お母さんが呼んだと思って……照男……。」母は死んだ。照男は湖に向って何度も母の名を呼んだ。母のいない日々が照男を悲しませた。カナリヤは少しも鳴かなかった。照男は孤独だった。母親と一緒の子供がねたましく、それが以前よりひどい乱暴となって現れた。松崎先生は心配し、照男に優しく問いかけた。彼ははじめて心の悲しみをもらした。「カナリヤが鳴いたら、お母さんがぼくを見てる--それなのに、カナリヤはもう鳴かなくなった……。」翌日、松崎先生は照男のカナリヤをクラス全員で飼うことにした。カナリヤ・クラスが生れたのだ。毎日のカナリヤ当番もきめた。--子供らのうたう“ゆりかごの歌”に、カナリヤが美しい伴奏をした。照男の顔に、明るさが生れ育った。