「一途すぎる「男の純情」というおとぎ話」無法松の一生(1958) 星のナターシャnovaさんの映画レビュー(感想・評価)
一途すぎる「男の純情」というおとぎ話
午前十時の映画祭で鑑賞。
小倉の町で、知らぬ者の居ない人力車夫の松五郎。
なんで有名かというと、相手構わぬ乱暴者なのである。
相手構わぬ乱暴者と言っても、
自分より権力のある者への反抗心であり、
町の人々は彼をそれなりに愛すべき乱暴者という感じで、
暖かかく見守っているのかと思っていたら、
時に、後先考えずに直情的に飛んでもな行為を
やってしまう松五郎(笑)
このシーンなんか流石に三船敏郎、
大きな動きでもう無法者感が半端ないっす。
「七人の侍」の菊千代を彷彿とさせます。
それでも、自分が間違っていたことに気がつくと
潔く頭を下げるような、真っ正直な男。
映画の初めの方はそんな松五郎の性格を
昭和の名優、有島一郎や笠智衆などが出てきて
トントンと紹介してゆく。とっても楽しい。
そんな松五郎が、とある軍人さんの息子を助けたことから
その軍人さんの家に出入りするようになり
主人である軍人さんが早くに亡くなると
その息子を父親がわりに何かと世話を焼いてみせる。
陽性の三船らしい楽しいシーンが続くが、
小学生だった息子がそれなりの年齢になると
いつまでも子供扱いする松五郎が煩わしくなり
以前のように気安く行き来できなくなってしまう。
その寂しさの中には、軍人さんの未亡人と
会えなくなってしまった事も含まれていた。
いつも己を信じて自信満々な役が多い役者だから
己を抑えて切ない表情の三船敏郎はなかなか観られません。
で、月に八回ほど映画館で映画を観る中途半端な映画好きとしては、
いつも思うのだけど、古い映画であっても
名作と言われる作品はテンポが良くてダレないですね。
時間の流れが人力車の車輪の回転で表現されていて
観やすい流れでした。
昭和初期の名作映画ということで
なんと一途で、なんと切ない「男の純情」というおとぎ噺。
未亡人への恋心を耐えきれずに告白しそうになって
でも話しきれなくて、困った表情のまま
去ってゆく姿は本当に切なかった。
今でも目に見えない形で階級の差ってものが横たわっていますが
時代背景が明治ということで
軍人の未亡人と人力車夫、身分違いの片思い。
それを死ぬまで胸に抱えて生きていくなんて〜〜〜。
今はもちろん昔だってそんな人は稀有だったのでしょうから
おとぎ話として残っているのでしょうね。
ここのところ、何を観ても、ほぼ泣く様なことは無かったですが
久々に、少し泣けました。