「嵐を呼んだ男、石原裕次郎」嵐を呼ぶ男(1957) 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
嵐を呼んだ男、石原裕次郎
ヤクザな性格ながら確かな腕を持つドラマー・国分正一。ジャズバーの女マネージャー・美弥子に見出され、メキメキと頭角を現し、スターダムにのし上がるが…。
役柄同様、石原裕次郎を一躍スターダムに押し上げた出世作。
見事なドラムさばきや歌も披露、ヒロインとのロマンス、格好いい男の体現…石原裕次郎の為に用意されたスター映画なのは確かだが、後に日活が量産するキザっぽい映画とはちょっと違う。
母親の愛に恵まれず、非行を繰り返す正一。
真面目な弟をも音楽の世界に引きずり込んだ正一を憎んでさえいる母。
型破りな正一に惹かれていく美弥子。
美弥子に横恋慕し、正一と美弥子の関係を妬む腹黒ジャズ評論家・左京。
人気の座を奪われた陰湿なライバルドラマー。
登場人物たちの愛憎が交錯する。
正一と母親の確執のドラマは、物語の根底と言っていい。
母親を見返す為、日本一のドラマーになる事を決意する正一。
遂にその夢は実現するが…それでも母は喜んでくれなかった。
正一と美弥子の関係を妬む左京が、作曲家としての道が開き始めた正一の弟を妨害しようとする。
弟を守る為、正一は身を犠牲にする。ドラマーの命でもある腕も潰される。
その事を知った母は後悔し、初めて正一への愛情が沸く。
正一の弟のコンサート曲をバックに、全ての確執やわだかまりが解けた母子愛の喜びは、正一が最後に見せた涙が物語る。
ただ主人公が活躍してヒロインと結ばれる…というありがちな話ではなく、主人公の哀切をしっかり描き、予定調和ながらツボを抑えた作りは好感。
話もテンポ良く、まるでアクション映画を見たような痛快さと爽快さがある。
この作品の大ヒットにより、スターとして日本映画界を牽引していく事になる石原裕次郎。
文字通り、日本映画界に“嵐を呼んだ”のだ。