劇場公開日 1956年1月29日

「本作もまた世界に誇る日本映画、いや世界の映画史に残る至宝でしょう」早春(1956) あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0本作もまた世界に誇る日本映画、いや世界の映画史に残る至宝でしょう

2019年8月17日
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鑑賞方法:DVD/BD

昭和30年頃の夏が舞台
では何故タイトルが早春なのでしょうか?
それは杉山夫妻にとって人生はまだ早春に過ぎないからなのです
小野寺さんが示唆する様に、まだ瀬田川でボートを漕いでいる人生の学生にすぎないのです

人生の様々な先輩や同僚達が登場します
サラリーマン生活は山あり谷あり、上司により、派閥により、健康により、順調に出世の階段を昇る者もいれば、儚く若死にする者もいる
女性にしくじる者だっている
夫婦生活も同じように波風もたてばすれ違いもある
それでもあっという間に月日は過ぎていくのです
気がつけば会社の先輩が脱サラで開いたバーに飲みに来ていた定年間近の男性のように暮れゆく秋を迎えているのです
その時、あなたは人生の早春をどのように思い返すのでしょうか?

瀬田大橋を快速でくぐり抜けていく漕艇
漕艇はオールを呼吸を合わせて漕がねばいけません、夫婦も同じだというメッセージなのです
だから小野寺さんの任地は滋賀支店に設定されているのです

蒲田と丸の内
アジア的なごみごみとした日本の家屋と都心の近代的なオフィスビル
岡山県三石と東京
山に囲まれた何もない町と猥雑で繁華な都会

その二つの対比を際立て描写しています
人生のオンとオフ、公と私、山と谷
それらをこの二つが象徴しています

そして、その両者を鉄道が結びます
鉄道は両者を毎日行ったり来たりするのです

さすが黒沢明と並ぶ世界に名声が轟く名監督小津安二郎作品
その中でも最高峰の傑作に挙げらるだけあります
何もかもが見事です
パーフェクトとはこの事でしょう

金魚役の岸惠子の美貌には目を奪われました
なんという美人
時代を超越してあり得ない程の美人です
彼女の序盤のシーンではブラウスの背中にうっすらとブラジャーが透けています
畳から立ち上がるときにスカートが翻り、チラリと足が一瞬覗きます
セックスアピールの演出の的確さは舌を巻きます

小津安二郎監督作品はとても日本的でドメスティックな内容のように感じます
しかし本作を観ているとイタリア映画のネオリアリズモにも似た味わいを感じます
普通の人々の生活への視線にはヴィットリオ・デ・シーカ監督にも負けない国際的な普遍性があると思います
本作もまた世界に誇る日本映画、いや世界の映画史に残る至宝でしょう

あき240