ただひとりの人
劇場公開日:1956年1月3日
解説
雑誌『平凡』連載の北条誠の原作を「逢いたかったぜ」の田辺朝治、「若い樹」の共同脚色者の一人、池田一朗に有本靖彦を交えた三人が共同脚色し、「少年死刑囚」の吉村廉が監督、「幼きものは訴える」の伊佐山三郎が撮影を担当した。主なる出演者は「乳房よ永遠なれ」の葉山良二、「続・警察日記」の新珠三千代、「母なき子」の東谷暎子、「生きものの記録」の清水将夫、「悪の報酬」の菅井一郎など。
1956年製作/日本
劇場公開日:1956年1月3日
ストーリー
第一部--小峯達也と小田切渚は相愛の仲であった。達也の父雄造は打算的配慮から達也が浜寺産業社長の令嬢宗子と結婚するのを望んでいた。宗子は四国の高地から上京して来た。渚を愛する達也は宗子と事務的に交際をするだけであった。ある日達也は妹美津子とともに渚を劇場に誘った。その日の午後彼は宗子とドライブをした。自動車は人里離れた郊外で故障を起した。二人は一夜をあるホテルで過すことになってしまった。この偶然に渚は疑惑の念をもやした。宗子はそれを知り自ら釈明に渚の前に現われた。渚は安堵したが宗子は達也への恋心をいだいたまま四国に帰った。雄造は渚の存在に気がつき、渚の祖父の七蔵を訪れた。七蔵は昔雄造の世話を受けたことがあるので、渚に思いきるようにいってくれという雄造の頼みを引き受けてしまった。それをきいた渚は涙を流して達也を思いきろうとした。事情を知らない達也は自分に会おうとしない渚の心を不可解としたまま高知の支社へ出張で旅立つことになった。第二部--高知での達也の生活は浜寺家の手厚いもてなしで何不自由はなかった。宗子は達也への思慕をいよいよつのらせたが達也は渚を思い続けるのであった。渚は脳溢血でたおれた七蔵の治療代の工面のために苦労していた。彼女の叔母夫婦は渚と子持ちの石森とを結婚させようとし、石森に治療代を出させた。達也を思う渚は石森の好意が苦しかった。渚はキャバレーの女給になった。七蔵は好きな人と一緒になるのが人生最大の幸福だといって死んだ。それと同時に石森の公金横領が発覚した。石森は心労のあまり病床についた。渚は己の責任を感じ石森の世話役を買って出た。宗子に渚の気持を確めた上で結婚してくれといわれた達也が上京して来た。渚を求めて石森家を訪れた達也は、かいがいしく働く渚の後姿を見、その場を立ち去った。やがて宗子と達也の結婚式が盛大に行われた。その式場の窓辺に佇み、涙に咽ぶ渚に気のついたのは、達也の父親雄造ひとりであった。