伊津子とその母
劇場公開日:1954年2月17日
解説
『オール読物』所載の由起しげ子の短篇『母の社会科』を、「にごりえ」の井手俊郎が脚色、「坊っちゃん(1953)」の丸山誠治が監督した。撮影、音楽は「雁(1953)」の三浦光雄、「恋文(1953)」の斎藤一郎がそれぞれ担当している。「母と娘(1953)」の水谷八重子、「愛人」の有馬稲子、三國連太郎、沢村貞子、「十代の誘惑」の青山京子、「山の音」の金子信雄、「鉄腕涙あり」の平田昭彦などが出演。
1954年製作/92分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1954年2月17日
ストーリー
伊庭伊津子は二十、母の延子は四十五、のんきな事にかけては似たもの母娘である、数軒の家作と間貸し、そして伊津子の月給が二人の収入のすべてだが、勤め先の神田書房は潰れかかってここ二三ヵ月給料は一円も出ない。ある日、社へ職を求めにきた純朴な青年杉は、伊津子からそのことをきき諦めて帰った。その夕方社長の甥舟橋の誘いをことわって帰宅した伊津子に縁談が待っていた。相手は名古屋の醸造会社の次男坊、縁談を機に延子は伊津子が実の娘ではない事情を打ちあけた。最初はげしい打撃をうけたものの、実の親子にまさる日頃の愛情を思いだして伊津子は元気になった。見合いは失敗した。地味な先方が延子のあまりに派手な応待ぶりに好感をもたなかったのである。それ以来伊津子は舟橋とのつき合いをいつか重ねるようになり、彼の紹介で彼女は潰れた神田書房から中央広告社に入社した。そんなある日、伊津子は偶然にも近所の歯医者で杉に会う。杉はモサッとしたその言動にこそ現われないが、毎日歯医者で彼女に会えるのを楽しみにしている。延子が家賃を取立てられぬと聞いた舟橋は、親切気を出して伊津子と家作を廻る。切端詰ったある店子が口走ったことばから、伊津子の生母が延子の夫の妾であることがわかり、それ以来舟橋は彼女から離れた。ひそかに舟橋をマークしていた延子は当の伊津子よりもがっかりする。杉はラジオ長崎に就職が決り、東京を去ることになった。延子はこんどは杉に希望をかんじているらしく、そんな母の気持が伊津子には早くムコを探して楽になりたい親のエゴイズムだと思われる。実の母だったら--ふと思ったその言葉を、昂奮のあまり口に出してしまった。母が彼女の頬を打った。飛出そうとした伊津子は、玄関でぱったり杉と出くわした。彼は正式に結婚を申込むが、傷心の伊津子はそれを断わる。しかし杉は諦めず、西下した後も我慢づよくプロポーズをつづけた。彼女の出生をきいても、驚く色もなかった。そういう彼に、さすがの伊津子も愛情を感じはじめる。その気持をくんで、杉に会うべく延子はひそかに九州に旅立った。