「4K 修復の値打ちが最高にあった作品です」刺青(1966) あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
4K 修復の値打ちが最高にあった作品です
日本のファムファタルとはどんな女なのか?
それが本作のテーマです
若尾文子の吸い突くような弾力のある乳白色の肌を宮川一夫のカメラが撮る
その映像を愛でる映画です
じっとり汗が滲んで良い匂いを放つ肌をこれでもかとシズル感タップリにひたすら撮る
入浴シーンは魂消るほど
舞台は江戸時代
手代の新吉と駆け落ちしようとするも騙されて売り飛ばされた大きな質屋の娘お艶が主人公
その肌に江戸一番の腕を持つ刺青師清吉が執着するのです、千年に一度の肌だと
彼は麻酔で気を失ったお艶の背中に精魂を傾けて女郎の顔を持った毒蜘蛛を彫ります
リズミカルに刺青の針を入れる
するとお艶は気を失っていても痛みで小さく声を出します
痛みの声のはずなのにそれが愉悦の声と表情に感じられてしまうのです
なんというエロチックさ!
やがて朝がきて彫り上がった女郎蜘蛛の刺青は、彼女の艶めかしい背中の上で、まるで生きているかのように動いて見えるのです
その刺青を彫る前に、このような台詞が交わされます
彼女を買った徳兵衛が壁に掛けた仏教画の画幅を指差してお艶にいいます
それは多数の屍骸の中に白く美しい観音様が立っている絵です
原作ではその絵には「肥料」という題がついています
この絵は面白い絵だ
美しい女が、多くの男達の骸を足の下に踏んで、そいつ等の血や脂を肥やしに生き生きと栄えている絵だ
おめえにそっくりなこの女を視ろ!
顔を無理矢理に向けされられた、その顔の美しいこと!
やがて芸者としてお艶は働かされ、徳兵衛に稼ぎを吸い取られるのですが、まるで背中の女郎蜘蛛の刺青が糸で獲物を絡め取るかのように男達を手玉に取りだすのです
やがて被虐と加虐が目まぐるしく入れ替わりはじめていくのです
最終的には彼女にかかわった男達はみんな死んでしまうのです
その刺青を彫った清吉までも
この蜘蛛は生かしちゃいけねえんだ!
お前の命を吸い取ったんだね!誰より先に!
いい気味だ!
見事な作劇で退屈はありません
原作は谷崎潤一郎の短編小説「刺青」
但し「しせい」と読むそうです
谷崎の処女作です
それを増村保造監督と脚本の新藤兼人の溝口健二の弟子二人で膨らましてその世界を完全映画化しています
そう書けばどれほどのレベルか知れようもの
4K 修復の値打ちが最高にあった作品と思います
共感、ありがとうござます。
若尾文子だからこそ成立した映画ですよね。
谷崎の小説の読みは「しせい」ですが、映画の読みは「いれずみ」…別の短編「お艶殺し」も題材にした脚色なので読みを敢えて変えたのでしょうね。
手練れの監督・脚本・撮影監督が若尾文子を魅せることに徹したプロジェクトだと思います。