柔道一代

劇場公開日:

解説

週刊読売スポーツ連載・近藤竜太郎原作を「裏切者は地獄だぜ」の松浦健郎が脚色、「ひばりの母恋いギター」の佐伯清が監督した柔道活劇。撮影は「狙い射ち無頼漢」の林七郎。

1963年製作/93分/日本
配給:東映
劇場公開日:1963年4月21日

ストーリー

信玄袋を肩にして柔術修業に上京した本郷四郎は、天道流大坪道場に入門した。師範代の巨大漢中山仙造の荒稽古に出会うが、大坪の美しい娘道子に四郎は心ひかれるものがあった。ある日四郎は、過日の柔術大会で完敗を喫した香野に復讐しようとする仙造一味に加えられた。しかし、一味が襲った人力車には火の玉組二代目、大村竜作が乗りこんでいた。竜作の男らしい啖呵にひかれて一人残った四郎は、竜作の車の梶をとった。翌日、この一切を知った大坪は仙造を破門したが、道場の所有権を楯に仙造は大坪親娘、弟子の北山らを追い出した。四郎も竜作の勧めで永昌寺の香野の道場に入門した。おのれを鍛えよと諭し、柔術を柔道と改めて邁進する香野の人格に四郎は傾倒していった。鳥森神社で行われている柔術と拳術の試合で、かつての友北山が外国人ボクサーに痛めつけられるのを見た四郎は、我を忘れてリングに上り巨体を投げ飛ばした。興行をメテャメチャにされた新興やくざの矢部一味は四郎に襲いかかったが、竜作の父源作の一言でその場は一応収まった。山北の話では、大坪が病に倒れ道子は苦界に身を沈めたという。四郎は道子を救おうと駈けまわったが、所詮手の届くものではなく、柔道一筋に生きようと心に決めた。やがて警視庁の武芸大会が催され、柔道代表に選ばれた四郎は柔術代表の大坪と対戦した。四郎の凄絶な山嵐が勝負のキメ手となり、大坪は己れを敗った柔道の技を潔よく認めた。試合から帰る四郎らが逢魔ケ原にさしかかった時、柔道を仇と狙う仙造、矢部一味が襲いかかった。そこへ父源作を矢部に殺された竜作が火の玉組を連れて殴り込み、大乱斗が展開された。翌日、大坪道場には竜作に身請けされて帰って来た道子と、四郎の希望に燃える顔があった。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

3.5柔道一代この世の闇に、俺は光を投げる〜のォ〜さァ〜♪

2024年9月15日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

東映チャンネル(スカパー!)の放送にて。

千葉真一の格闘技映画主演第一作は空手映画ではなく柔道映画だった。
この映画は村田英雄のヒット曲「柔道一代」を映画化したものだと思っていたのだが、この曲がこの映画と、同時期に放映されていたテレビドラマ両方の主題歌だったとは知らなかった。
村田英雄も出演していて、主演の千葉真一よりも先にクレジットされている。

原作小説もテレビドラマ版も知らないが、本作は言ってみれば「姿三四郎」まんまだ。
どうやらほぼ映画版オリジナルストーリーで、登場人物の名前も原作から変更されているらしい。
面白いのは〝講道館〟〝天神真楊流〟だけは実名称を用いているところだ。小説「姿三四郎」では講道館を〝紘道館〟と置換えているし、黒澤明の映画『姿三四郎』では音を変えて〝修道館〟とさらに置換えている。
本作(原作)は〝講道館柔道〟をフィーチャーしているということなのだろう。天神真楊流は嘉納治五郎師範が修行した柔術の伝統流派なのだ。

本作の公開年は柔道が初めて正式種目に採用された東京オリンピックの開催前年であり、高まる柔道熱をさらに煽る役割にテレビドラマ版も映画版も一役買ったようだ。

若き千葉真一が演じる本郷四郎は、姿三四郎のモデルでもある〝講道館四天王〟の一人西郷四郎…というより姿三四郎そのものだ。
師匠となる杉浦直樹が演じる香野理五郎はもちろん嘉納治五郎師範であり、「姿…」における矢野正五郎だ。
柔術、拳闘、琉球唐手と本郷四郎が戦いを繰り広げるのも「姿…」そのままだが、当然ながら原作が別の小説なのだから「姿…」の映画化にならないようにアレンジされている。
だがしかし、黒澤明の『姿三四郎』『続姿三四郎』の影響はところどころに見え隠れする。

警視庁主催の武術大会(柔術の部)で講道館柔道が世に名を馳せたのは事実(明治18年…諸説あり)で、「姿…」でも描かれている。
本作では、本郷はこの大会で活殺天道流の師範・大坪靖之助(神田隆)に勝利する。病み上がりだった大坪は再起不能のダメージを負ってしまう。
この当時の柔術の試合は一方が「参った」することで勝負を決するものだったから、負けを認めなければ何度も投げられることになるので、壮絶な結果はあり得ただろう。
背中から落として「一本」とするのは嘉納治五郎師範が後に考案した勝負判定で、石畳で戦えば背中から落とされただけで悶絶するという根拠に基づいている。

この大坪靖之助は「姿…」に登場する良移心当流の師範・村井半助の焼き直しだ。娘の道子(佐久間良子)が本郷に恋心を抱くのも同じだ。大坪の直弟子であり道子に思いを寄せている北山(佐伯徹)は、「姿…」では最大のライバル檜垣源之助に当たるが、北山は本郷が活殺天道流道場に入門する際に友情を築いた兄弟子という位置づけで対立関係にはならない。本郷は北山の道子への想いを汲むあまり、自分の恋心に蓋をするというオリジナルな青春ロマンスになっている。
一方、檜垣源之助の置換えはというと、神明活殺流師範代・門馬三郎を檜垣にミックスしたキャラクターとして、活殺天道流の師範代・中山仙造(山本麟一)が担っている。だが、こちらは薄っぺらい悪役である。中山のターゲットは本郷ではなく香野理五郎なのでライバルですらない。

拳闘(※)との興行試合で本郷が講道館を破門されるのも「姿…」と同じだが、三四郎はボクサーに足を向けた寝姿勢で対峙(アントニオ猪木がモハメド・アリと戦ったときと同じ)し、巴投げで勝利するところ、本郷はパンチをかわして立ち技でボクサーを何度も投げる。
※「姿…」では拳闘を〝すぱあら〟と呼称している。〝スパーリング〟から来ているのではないかと思う。本作中、見世物小屋の横断幕には〝米国拳術〟と書かれている。

琉球唐手の猛者 与那嶺拳心(大村文武)も「姿…」の檜垣鉄心・源三郎兄弟の置換えだが、本郷を狙う理由が全く異っている。
長兄源之助の仇として打倒姿三四郎に執念を燃やす檜垣兄弟だったが、与那嶺拳心は妹である琉球料理屋の女将(筑波久子)の女心をもて遊んだと知って本郷に恨みを持つのだ。
それ以前に本郷と与那嶺がすれ違いざまに互いを強者と察知する場面がある。

村田英雄が演じる火の玉組の若旦那・大村竜作は、東映が得意とする〝良いヤクザ〟だ。
大坪靖之助が中山仙造に道場を乗っ取られ、芸者に身をやつした道子を救うのがこの若旦那だ。本郷の後ろ盾にもなる。
当然に悪いヤクザ=黒卍会が登場する。
中山仙造一派と与那嶺を引き入れた黒卍会は結託。まずは火の玉組組長を刺殺し、一気に講道館と火の玉組の壊滅を画策する。

クライマックスの野原での戦いが、ヤクザと武道家たちが入り乱れた集団戦になるところが面白い。
私闘を禁じる講道館ではあるが、「降りかかる火の粉を払うのも柔道」と香野も羽織を脱いで大乱闘に突入する。
本郷だけでなく香野、大村にもしっかりと見せ場がある。
本郷と与那嶺の決戦は、互いにヤクザたちの凶刃をかわしながらの闘いとなり、未決着のまま終わるのが消化不良だ。
そして、最後はヤクザの組長が弟子では迷惑がかかると、講道館を辞する決意を香野と本郷に伝えた大村の締めのセリフに村田英雄の唄声が重なって幕を閉じる。
「(柔道を)捨てやしねぇよ。心の底にいつまでも、大事に仕舞っておくのさ」

試合場面でも修行場面でも、千葉真一の身のこなしはサスガだ。元々体操競技で東京オリンピックを目指していた人だがら、当たり前といえば当たり前だが、決めポーズなどを含めてエンターテイメントとしての魅せ方が上手い。
猫の動きを手本に着地の練習をする場面などは見事だ。

驚いたのは杉浦直樹だ。ホームドラマのイメージが強かったが、教育者でもある柔道家の佇まいを体現していて、意外とカッコいい。

佐久間良子はこの頃何歳だったのか、憂いある目元にふくよかな唇がキュートだ。芸者姿は可愛らしさと色っぽさが同居していて印象深い。
千葉真一とのシーンは意外と少なく、出番自体が短いのが物足りない…。

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kazz