女系家族のレビュー・感想・評価
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婿養子当主が、死して女系家族に残したもの
若尾文子映画祭にて。
三代に渡って女系が続いた大阪の老舗木綿問屋〝矢島商店〟(映画では事業の説明はない)で、入婿の当主が死去し、その遺言が巻き起こすドタバタ騒動の物語。
山崎豊子の小説としては比較的短い、とはいえ長編である原作をコンパクトにまとめていて面白い。
ベースは「犬神家の一族」にも似た構造だが、大番頭・宇市(中村鴈治郎)をコミック・リリーフに仕立てて、エゲツナイ遺産争いを滑稽に見せるアイロニーに満ちている。
長女・藤代を演じた京マチ子と、当主の愛人・文乃を演じた若尾文子が並列で主演。
京マチ子は、惣領娘のプライドと出戻りの疎外感が重圧となって次第に追いつめられていく藤代の姿を、強さと辛さの両方をにじませつつ、舞踊教室の若旦那(田宮二郎)にすがってしまう女の弱さも表していてさすがだ。
若尾文子の方は出番は少ないが、それが却って彼女を光らせていた気がする。
本宅の娘たちから酷い仕打ちを受ける可哀想な日陰の女だが、最初から只者ではない空気を纏っていて、後半で見せる意味深長なほくそ笑みがドキッとするほど美しいのだ。
狭い路地のパースペクティブ、重なり合うような瓦屋根の俯瞰、人物を画面の端に押し込んだ構図など、三隅研次独特の画作りは本作でもたっぷり披露されていてファンには堪らない。
さて、この騒動で一体誰が得をしたのか、損をしたのか。
本宅の三姉妹は目論見を果たせなかったが、心の平穏は取り戻せたのではないだろうか。
妾である文乃が女系家族に産み落とした男児が二十歳を迎えたとき、矢島商店の事業が順風満帆であってほしいものだ…。
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国道171号線
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