斬る(1962)のレビュー・感想・評価
全9件を表示
藤村志保さんを偲んで
藤村志保さん
2025年6月12日肺炎のため86歳で他界
本名静永操
旧姓薄(すすき)
芸名はデビュー作の役名志保と原作者島崎藤村から
幼い頃から日本舞踊を習い若くして家元に
大映入社後は映画会社のスターに
ビデオマーケットで鑑賞
市川雷蔵出演作初鑑賞
デビューまもない藤村志保のあどけない顔立ち
監督は『桃太郎侍(1957)』『大菩薩峠(1960)』『座頭市物語』『女系家族』『眠狂四郎 勝負』の三隅研次
脚本は『裸の島』『ハチ公物語』『遠き落日』『おもちゃ』『完全なる飼育』の新藤兼人
併映
田宮二郎主演の現代劇『黒の試走車』
粗筋
小諸藩貧乏藩士高倉家の長男高倉信吾は剣の腕前はからっきしのはずだが三年の旅の末に剣豪に変貌していた
不仲の隣家に父と妹を殺され仇を討った信吾は藩を出て浪人になる
信吾は高倉信右衛門の実の子ではなかった
かつてのお家騒動で命を受けて側室を殺害した侍女山口藤子が実の母
命を受けて藤子を孕ませた藩士多田草司が実の父だった
実の母は実の父にやって打首となった
浪人の旅の末になんやかんやで幕府大目付松平大炊頭の用心棒に落ち着く
甲府金番の姉が弟を救うために追っ手たちの前に立ち塞がるがなぜか全裸
結局斬り殺される
謎の演出
大目付を狙う暗殺者たちをたった一人で斬り殺した用心棒信吾
斬ったあとの刀を拭いた紙を空に撒き散らす演出好き
終盤のBGMは鶯の鳴き声
女の柔肌に流れる鮮血
悲哀の表情の市川雷蔵
市川雷蔵といえば野球好きで同じく野球好きの中村錦之助と雑誌対談で野球談義に花を咲かせた一枚の写真を思い出す
配役
高倉家の養子として育てられ3年の旅を経て邪剣三弦の構えを習得した天才剣士の高倉信吾に市川雷蔵
飯田藩江戸屋敷の侍女で信吾の実の母の山口藤子に藤村志保
信吾の妹の高倉芳尾に渚まゆみ
主水の姉の田所佐代に万里昌代
20人もの武士に追われる甲府金番の田所主水に成田純一郎
剣の道場主の千葉栄次郎に丹羽又三郎
水戸の名剣士の庄司嘉兵衛に友田輝
幕府大目付の松平大炊頭に柳永二郎
元長岡藩藩士で今では出家の身となっている信吾の実の父の多田草司に天知茂
高倉家の隣家に住む池辺義一郎に稲葉義男
江戸の武士に千葉敏郎
飯田藩主の愛妾の若山に毛利郁子
水戸城用人Aに伊達三郎
水戸城用人Bに細谷新吾
義一郎の息子の池辺義十郎に浜田雄史
飯田藩城内家老の安富主計に南部彰三
信吾の養父に高倉信右衛門に浅野進治郎
小諸藩藩主牧野遠江守康哉に細川俊夫
水戸藩家老の興津新左衛門に玉置一恵
殺陣が美しい
眠狂四郎の原形がここに始まっています
或る邪剣の生涯
三隅研次監督&市川雷蔵主演による“剣”三部作の第一弾。1962年の作品。
ある剣客の数奇な運命。
とある藩士の息子、高倉信吾。
父の許しを得て三年の武者修行に出、帰ってから藩主の命で水戸の剣客と立ち会い、これを破る。
信吾の剣の腕と藩主の寵愛を鰻登り。
ある理由から隣家の藩士親子から根を持たれ、父と妹を殺される。
父から絶命の寸前、衝撃の出生の秘密を明かされる。
本当の母は、殿の命で妾を討った侍女。殿の慈悲で匿った藩士との間に産まれたのが、信吾。
やがて実母は処刑されるが、その時自ら斬ったのが、実父であった…。
育ての父と血の繋がりの無い妹の仇を取り、藩主の慈悲を受けて信吾は旅に出る。
実父と会う。実父は実母の墓と共に世を捨て独り生きていた。
旅の途中、多くの武士に追われる姉弟と出会う。助太刀しようとするが、弟を逃がす為に犠牲となった姉の姿に心打たれる。
江戸で出会った道場主に剣の腕を見込まれ、幕府お目付け役に仕える。
信吾はお目付け役に亡父を感じ、お目付け役は信吾に亡息子を感じる。
水戸藩取締でお目付け役と水戸に赴くが、そこで…。
…と、文章にしてあらすじを書くとそこそこ長くなるが、尺は何と70分強!
波乱に満ちたある剣客のドラマをよくコンパクトに収めたもんだと感心する。(脚本は新藤兼人)
なので、要所要所のドラマは抑えられているものの、ずっしりとした見応えがあるとは言い難い。ドラマ的な深みや重みには欠ける。
が、数奇な運命に翻弄され続けた非運は充分。
育ての親を亡くし、衝撃の出生を知り、やっと生涯仕える事が出来そうな人物に会えたと思ったら…。
人を斬り続けた邪剣。
運命の果てはすでに決まっていたのかもしれない。
信吾の人生に影響を与えた三人の女たちが、三者三様で印象的。
職人・三隅研次の演出も、時折のワンカットワンカットに鋭い冴えを感じる。
そして、市川雷蔵。
その美形と憂いに満ちた佇まいは非運の剣客にぴったりであった。
☆☆☆☆★ ナイフや剃刀等で指等を切ると感じる痛みは、一瞬にして全...
全9件を表示