「脚本にやや難あり」野良犬(1973) あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
脚本にやや難あり
一つ前のレビュー(7年前のものだけど)は黒沢明が、三船敏郎が、と書いてるがそれは1949年版。そして黒沢でなく黒澤明です。人の名前は気をつけましょう。まずはレビューは観てから書きましょうね。
ということで本作はリメイクで1973年公開版です。
49年版は新東宝で黒澤が一本だけつくった作品なのだけど、73年版は松竹が制作、配給していて、軽みを持ち味にしていた森崎東が監督している。まあ珍品に類するものですね。当時は盆暮れのプログラムピクチャーに加えて他の季節も毎月新作を公開していたので慢性的に企画が足りない。で松竹が黒澤プロから原作使用権を買い付けたのでしょう。タイトルとエンドクレジット前の「完」がクロサワ風のスミ文字になっているところがなかなか風味があります。
もっとも新旧版が同じなのは、若い刑事が拳銃を取られベテラン刑事とのタッグで取り戻すという骨格となる設定のみ(刑事の名前が村上と佐藤であるところも同じ)拳銃を取られる経緯もその後の展開も話は全く異なります。つまり脚本は別物。で、73年版は沖縄人差別などの問題も折り込みながら(沖縄返還がこの前年だったのでタイムリーな話題だったのでしょうね)世相に合わせた脚本としているがいかんせん練り込み不足で散漫な印象です。登場人物が多く、ヤマ場も分散していて、ストーリーを追いづらいしどうも話に入っていけない。
そうそう、この映画は横浜のシネマ・ジャック&ベティで「ディープヨコハマを映画と歩く」と銘打った企画で1週間だけ上映されたものなのですがロケ地は横浜だけでなく新宿をはじめ色々設定されている。それだけ予算を使って撮影したということなのだろうがもっと舞台と登場人物を絞り込んでじっくり話を組み立てていくという基本設計にたっていればより良い脚本がつくれたかもしれない。
49年版の魅力は、どうしようもない真夏の暑さと村上刑事の焦りが重なってジリジリ、ピリピリとスクリーンの向こうから伝わってくるところにあった。73年版も踏襲しようとしているが、おそらく公開時期からして撮影は4〜5月くらいでありロケが大規模すぎることもあって成功していない。それも一つの要因となって三船敏郎と渡哲也ではパッションの違いも感じてしまう。つまり渡哲也の場合、汗をかいていてもどうも本人と遊離しているというかメイクさんが水を吹きかけ、はいオーケーです!っていう感じが見えてしまうというかね。まあそれぐらい49年版の三船の存在感は素晴らしく渡哲也は気の毒であったということなのだろうが。