「川の底から見つかった少年は、良い子なのか、悪い子なのか」ブラックボード 岡田寛司(映画.com編集部)さんの映画レビュー(感想・評価)
川の底から見つかった少年は、良い子なのか、悪い子なのか
自転車が括り付けられた少年の遺体が、川底から見つかる――亡くなったのは、中学3年生の安井猛。衝撃的な冒頭だ。殺害をあっさりと認めたのは、同級生2人組。彼らは、安井少年から過激ないじめを受けていた――と、ここまで語れば「復讐」の2文字が浮かぶだろう。しかし、事件に迫る新聞記者がとらえたのは、善と悪の間で行き来する安井少年の実像。彼は本当に「復讐」されるような人間だったのか。
前述の通り、本作では「被害者」「加害者」は意図も容易く判明してしまう。カメラが追いかけるのは、いじめ問題によって対応を求められる警察、学校、両親、そして同級生の姿だ。そして「サザンオールスターズ」の楽曲が度々挿入されながら、安井少年の真実を明らかにする回想が紡がれていく。
安井少年は、同級生2人組に過激ないじめを与えていた。その所業は到底許されるものではないのだが、徐々に真逆の“顔”ものぞかせていく。女子グループからいじめられていた少女を助け、自らの“子分”に(「茶巾」いじめは、かなりショックな場面である)。近所の人々にも評判が良かったようだ。同級生2人組とも、秘密基地のようなスペースで酒とたばこを交わすという、一見すると“仲の良い”光景すら見せている。しかし、ある瞬間には、教師も太刀打ちできない悪行を働き、学校中を混乱に陥れている……。
(安井少年は)良い子だったのか、悪い子だったのか――劇中、ある人物が語る言葉に、本作の魅力が凝縮されている。この問いは、誰も答えることができない。安井少年すらも、自ら答えを導きだすことはできないだろう。
余談:安井の母を演じた乙羽信子の名演に惚れ惚れ。それと、バードウォッチングの手法で“犯人捜し”という奇天烈な場面も見どころです。