鋼鉄
解説
「御気に召すまま」の原作者ルイジ・ピランデルロが書いた原作により、「世界のメロディー」「伯林-大都会交響楽」の作を以て知られているワルター・ルットマンが監督したイタリアトーキーで、撮影にはマッシモ・テルツァーノとドメニコ・スカラが共同して当り、伴奏楽の作曲には鬼才マリピエロが特に任じている。出演者はイタリア映画の人気女優イザ・ポーラに配するピエトロ・パストーレ、ヴィットリオ・ベラチーニ等が選ばれている。
1932年製作/イタリア
原題または英題:Acciaio Arbeit macht
ストーリー
イタリアテルニの製鋼場は世界でも指折り数えられる大工場だ。雷の様な律動的な騒音と青白い蛇のような焔。打ちおろすハンマーに飛び散る火花。生れ落ちる時からこの騒音を耳にし、日々の遊びにもハンマーを振って育ったテルニの村人達には鋼鉄が生活の一部分だった。鋼鉄との共同生活から逃れ得ない村人達。彼等は終日機械の間にはさまり鋼鉄の燃ゆる光で目を患って生涯を終るのだ。この人々の中で、若いマリオだけは何か別の生活を求めていた。彼は自転車競争に参加した。彼は故郷をあとに二年間もイタリアの真青な空の下を自転車でかけ廻ったのだった。マリオは恋人ジナがテルニにいることを思って、二年振りで故郷へ帰って来た。工場の鉄扉が吐出す真黒に疲れた職工の群の中の一人にマリオはとびついた。マリオの帰郷を迎えて相抱いたピエトロの顔には憂悶の影があった。二年間うつちやらかされていたジナはピエトロに口説かれて婚約をとりかわしたのだった。その夜は祭りだった。憤るだけ憤り、悲しむだけ悲しんだマリオは、おどおどしているジナとピエトロに笑顔を見せるだけの余裕をすでに持ち得ていた。ジナは焼きつくような瞳でマリオを見詰めている。その横顔を見てピエトロは不安と嫉妬に慄えた。もともとマリオに夢中になっていたジナ--それをマリオの留守中の親切ごかしで自分になびかせたジナ。マリオがジナと踊りに立つと、ピエトロは思わず眩暈を感じて声高に喧嘩を売った。そして衆人の見るまえで、掴み合いをして気まづく引分けられたマリオとピエトロのばつの悪さ。その二人が翌日工場で共同作業に当ってしまった。マリオの突出す白熱の鋼鉄をピエトロが打返す、イキとイキの仕事だ。昨夜の喧嘩を見た職工達が二人の方を盗み見ては囁き合った。二人の険悪な気持ちは何かしら怖ろしい結果を招くような気がする。二人の眼は火の様に燃えている。だが旅に出て苦労してきたマリオはやがてその眼に微笑を湛えることが出来たが、ピエトロは製鋼場を一歩も出たことのない一克者だ。怒ってガラリとハンマーを投捨てた瞬間、蛇の様な鋼鉄のうねりが来た。一瞬ピエトロは焼けて死んでしまった。明らかにピエトロの過失死だった。マリオはその筋の咎めも受けず、工場でも馘首はしなかった。ただ人々の眼がマリオをマリオの心を貫いた。彼とピエトロはジナを争ったのだ。それ故に喧嘩までしたのだ。死ぬる刹那までピエトロはマリオを憎んでいたのだ。ピエトロの墓碑の前に立つとマリオは侘びしかった。マリオは再びイタリア一週自転車競争に参加した。村はずれの崖の上まで来てマリオは村を見下ろした。サイレンだ。職工交替のサイレンだ。マリオは力強く自分を引張る力を感じた。鋼鉄の誘惑だ。幼い時から臭いを嗅いで育った鋼鉄の誘惑だ。村人の冷たい眼ざしも今は意に介しない。マリオは巨人の如き製鋼場へ向って烈しくペタルを踏んで行くのだった。
スタッフ・キャスト
- 監督
- ワルター・ルットマン
- 原作
- ルイジ・ピランデッロ
- 撮影
- マッシモ・テルツァーノ
- ドメニコ・スカラ
- 音楽
- フランシスコ・マリピエロ