夢みる唇

解説

アンリ・ベルンスタイン作の戯曲『メロ』を映画化したもので、「ニュウ」と同じくエリザベート・ベルクナーが主演するパウル・ツィンナー監督作品である。脚色にはツィンナーが「旅愁」のカール・マイヤーと協同して当った。キャメラは「ナポレオン(1927)」のジュール・クリュージェの担当。「三文オペラ」のルドルフ・フォルスターと、アントン・エトホーファーが共演する。

1932年製作/ドイツ
原題または英題:The Dreaming Lips Der Traumende Mund

ストーリー

二人は幸福だった。ロメーンは夫を芸術家として愛し、ペーターは彼女を溺愛している。ペーターはある管弦楽団のヴァイオリニストで善良な呑気な男であった。ロメーンは気だての優しい妻だった。ある夜ロメーンは夫の従姉と一緒に音楽会へ行った。ミハエル・マースデンというヴァイオリンの大家の独奏会だった。ペーターも伴奏のオーケストラの一員としてヴァイオリンを弾いていた。ロメーンはマースデンの芸術家らしい風貌とその神技に魅された。演奏を終えて嵐のような拍手に答礼しながら退場する時、マースデンはオーケストラの中に旧友ペーターを見出でる。二人は若い時からの知り合いだった。マースデンは楽屋にまで祝辞を述べに来る人々に会釈し、ペーターとその夜を共に過ごそうと約束する。夫を探しまわっていたロメーンはある部屋のドアを開いて、図らずも先刻感激させられた大ヴァイオリニストと相対して驚く。二人の眼と眼が合う。ロメーンは急いで立去った。マースデンは女の後姿を見送る。マースデンとペーターはとある酒場で旧交を温める。帰宅するとペーターは旧友との邂逅を感激と共に語り、マースデンを我が家に招待する由を妻に話す。大芸術家の来訪はロメーンを喜ばせた。だが平凡な幸福にのみ馴れている彼女にはこの喜びは余りに大き過ぎた。彼女の純な感じ易い魂は揺り乱されずにはいなかった。ロメーンは遂にマースデンの住居を訪れる。マースデンは彼女の軽率をさとして帰宅を促す。旧友の妻を奪うことは忍び得ないことだった。だがロメーンが立去ろうとした瞬間、彼は彼女の腕を無言のまま執って引き戻すのであった。かくてマースデンは彼女を愛した。そして彼女が再び彼を訪れてきた時には、自分かペーターか誰を選ぶか決めてくれと迫るのであった。ロメーンは何事も知らぬ善良な夫に苦杯を嘗めさせるには忍びない。彼女は迷った。そのうちマースデンは演奏旅行に赴く。ペーターは苟苴の病いで床に臥す身となる。彼女は幾度か夫に彼の事を告白すべき機会を狙ったが、遂に彼女は言い出し得なかった。彼女は懸命に夫を看護することによって罪の幾分でも償うよりほかはないのだった。マースデンは演奏旅行を終えて帰って来た。電話だ。彼女の心は乱れる。次の瞬間ロメーンは家を飛び出して行く。二人は逢えば悲劇だった。マースデンは自分が身をひいて町を去り、彼女を夫の許へ返そうとする。だが泣いて自分も連れて逃げてくれと女に哀願されて彼は旧友の妻を奪い去る。列車中で男は疲れて仮睡する。病床の夫を想って堪えられなくなったロメーンは列車を降りて吾家へ走った。そして彼女は初めて夫の純な大きな愛を悟る。お前が笑ってくれれば俺は病苦も忘れて唯嬉しいのだとペーターは言う。ロメーンは笑う。癇高に笑いは昂まる。その笑いが突然やむ。ロメーンは身を翻して家を飛び出してしまった。程経てセエヌ河の河岸にロメーンの上衣と夫ペーターに宛てた遺書が発見された。「真実私が愛していたのは貴方だけでした、私は最後の瞬間まで貴方を想い貴方を愛しています」と書かれてあった。

全文を読む(ネタバレを含む場合あり)

スタッフ・キャスト

全てのスタッフ・キャストを見る

映画レビュー

映画レビュー募集中!

この作品にレビューはまだ投稿されていません。
皆さまのレビューをお待ちしています。
みんなに感想を伝えましょう!

レビューを書く